伯爵と雇われ花嫁の偽装婚約
「だけど何ですぐに、ペジャンで降りたと知らせなかったんだ?」
「その事故の影響で、ペジャンからもブレリエント行きの船が一時的に出なくなったんだ。手紙を運ぶのも船だ。書いても届かなければ意味がない」
実際に運航が再開されたのは、それから五日後のことだった。仲間の回復も意外と早く、ライル達はすぐに一番の船に乗るつもりで手続きをしていたので、今から出港する、と早速手紙を書いたのだが、思いの外、船が小さかったのと、我先に一刻も早く出発したいという客が多過ぎて、切符を入手するのが困難な状況だった。
「俺達が港を出るまでに、さらに現地で四日も待たされたよ。その間に、手紙を乗せた船がペジャンを出てしまった」
だから手紙だけが、やけに早く届いたのか、とアンドリューは納得した。
「それからは順調に航海を続けてブレリエントの港に着いた。でもその時に……」
「まだ何かあったのか?」
「俺達の存在は、いつの間に行方不明者……いや、ほぼ死亡者扱いになっていることを知ったよ。なぜそんなことになっているのか、警察に問い合わせたら、逆にそこで足止めを喰らってしまった」
怪しげな人物だと見なされたのだろう。だが、幸いブレリエント側の船会社に記録が残っていた。
「ペジャンで降りた時に、船員のミスでちゃんと手続きがされていなかったらしい。こちらも予定外の地で無理を言って急に降りたからね。俺達はそのままあの船に乗っていたことになっていた」
「……何だよ、それ……」
アンドリューは脱力したように、背もたれに体を預けた。クレアも、馬車の中で話を聞いた時、同じ感想を持ったので、何も言わず黙っていた。
「港に着いた時、すぐに汽車に乗って帰れると思ったんだ。でも、今にして思うとその時にちゃんと、ブレリエントに無事に帰ってきた、という知らせを出していれば良かったと反省してる。クレアから、アンドリューや叔父夫婦も、俺の身をとても案じてくれていたと聞いた。本当にすまなかった」
ライルは頭を下げた。アンドリューはしばらく何も言わなかったが、やがて深く息を吐き出した。
「頭を上げてくれ。……もう、いいよ。お前が無事に帰ってきたんだから。僕はこれで失礼するよ。両親にライルの無事な様子を伝える。それに、一番心配してたのは、他でもないクレアだからな。ちゃんと謝っとけよっ」
アンドリューはぶっきらぼうにそう言うと、ライルの顔を見ずに立ち上がり、部屋を出ていった。その時クレアは、アンドリューの目に少し涙のようなものが浮かんでいるのを見た気がした。
「ライル様……アンドリュー様はあんな言い方なさってましたが、本当に心配してらしたんですよ」
「うん……分かってるよ。俺も逆の立場だったら、すごく怒ると思う」
ライルの顔は穏やかで、クレアはそこに従兄弟達の絆を確かに感じた。
「その事故の影響で、ペジャンからもブレリエント行きの船が一時的に出なくなったんだ。手紙を運ぶのも船だ。書いても届かなければ意味がない」
実際に運航が再開されたのは、それから五日後のことだった。仲間の回復も意外と早く、ライル達はすぐに一番の船に乗るつもりで手続きをしていたので、今から出港する、と早速手紙を書いたのだが、思いの外、船が小さかったのと、我先に一刻も早く出発したいという客が多過ぎて、切符を入手するのが困難な状況だった。
「俺達が港を出るまでに、さらに現地で四日も待たされたよ。その間に、手紙を乗せた船がペジャンを出てしまった」
だから手紙だけが、やけに早く届いたのか、とアンドリューは納得した。
「それからは順調に航海を続けてブレリエントの港に着いた。でもその時に……」
「まだ何かあったのか?」
「俺達の存在は、いつの間に行方不明者……いや、ほぼ死亡者扱いになっていることを知ったよ。なぜそんなことになっているのか、警察に問い合わせたら、逆にそこで足止めを喰らってしまった」
怪しげな人物だと見なされたのだろう。だが、幸いブレリエント側の船会社に記録が残っていた。
「ペジャンで降りた時に、船員のミスでちゃんと手続きがされていなかったらしい。こちらも予定外の地で無理を言って急に降りたからね。俺達はそのままあの船に乗っていたことになっていた」
「……何だよ、それ……」
アンドリューは脱力したように、背もたれに体を預けた。クレアも、馬車の中で話を聞いた時、同じ感想を持ったので、何も言わず黙っていた。
「港に着いた時、すぐに汽車に乗って帰れると思ったんだ。でも、今にして思うとその時にちゃんと、ブレリエントに無事に帰ってきた、という知らせを出していれば良かったと反省してる。クレアから、アンドリューや叔父夫婦も、俺の身をとても案じてくれていたと聞いた。本当にすまなかった」
ライルは頭を下げた。アンドリューはしばらく何も言わなかったが、やがて深く息を吐き出した。
「頭を上げてくれ。……もう、いいよ。お前が無事に帰ってきたんだから。僕はこれで失礼するよ。両親にライルの無事な様子を伝える。それに、一番心配してたのは、他でもないクレアだからな。ちゃんと謝っとけよっ」
アンドリューはぶっきらぼうにそう言うと、ライルの顔を見ずに立ち上がり、部屋を出ていった。その時クレアは、アンドリューの目に少し涙のようなものが浮かんでいるのを見た気がした。
「ライル様……アンドリュー様はあんな言い方なさってましたが、本当に心配してらしたんですよ」
「うん……分かってるよ。俺も逆の立場だったら、すごく怒ると思う」
ライルの顔は穏やかで、クレアはそこに従兄弟達の絆を確かに感じた。