伯爵と雇われ花嫁の偽装婚約
……本当に……本当に、帰ってきて下さった……。

安堵すると同時に、喜びの気持ちが大きく膨らんでいく。

もっと顔を良く見ようと、身を屈めて、ライルの秀麗な寝顔に近付こうとした。

その時。

その瞼がゆっくりと持ち上がり、緑の瞳がクレアの顔を映し出した。二人の視線が至近距離で交わる。

「えっ、あっ……」

クレアは驚いて、慌てて離れようとしたが--
彼女より素早く動いたのはライルだった。ライルはクレアの腕を掴むと、そのまま強く引き寄せ、腕の中にすっぽりとクレアの体を収めてしまったのだ。

「あ、あのっ……」

ライルの体の上に覆い被さるような姿勢になってしまい、クレアは羞恥で顔を赤らめた。

「驚いたな。まさか、君から夜這いに来てくれる日が来るなんて」

「よ、よばっ……」

慌てるクレアに対して、ライルの口調はどこか楽しげだ。

「でも、俺も男だから、そんなに体を押し付けられると、いろいろ反応してしまってどうしていいか分からなくなるよ」

「な、何仰ってるんですか、ライル様、この状況、良く見て下さい! 私のせいじゃありません!」

恥ずかし過ぎて、涙目になりながら必死で抗議するクレアを見て、ライルは口角を上げると、ごめん、と呟いてようやくクレアを解放した。

クレアがライルの上から下りると、ライルも起き上がり、自分に女物のガウンが掛けられていることに気付いた。

「……あ、それは私のです。ライル様が風邪をお召しになるといけないと思って……」

「そうか……俺の様子を見に来てくれたんだね、ありがとう」

ライルはクレアの肩にガウンを掛け直すと、自分も横に座った。

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