伯爵と雇われ花嫁の偽装婚約
翌日の早朝。

クレアは朝食も取らずに、身支度を済ませると、ライルと顔を合わせてしまう前に、馬車に乗り込み、店へと向かった。

しばらく走ると、店の近くに着いた。クレアが元気がないことを心配したジュディが一緒に店に残ると言ってくれたが、これはお屋敷の仕事ではないから、とクレアは感謝しつつ、断った。

ひとまず今日は下準備で、明日以降の開店にする予定だ。ずいぶん店を休んでしまったので、それなりに埃は溜まる。

クレアは窓を開け、まず掃除から始めた。それが終わると、次は在庫と仕入れの確認だ。久しぶりに一人でこなすのは骨が折れるが、忙しいと余計なことを考えずに済むのは助かる。

一通り、準備が終わった頃には、太陽は空の頂点を通り過ぎていた。

まだジュディが迎えに来る夕刻までは時間がある。クレアは奥の続き部屋に入ると、母の愛用の鏡に自分の顔を映し出した。

……なんてひどい顔……。

一晩中泣いたので、目は腫れ上がり、くまも出来ている。顔は青白く、生気がない。

……ライル様……一体、どういうつもりなの……?

やはり、彼のことを考えてしまう。

……シルビア様のお孫さんと、本当に結婚するの……?

昨日の応接間での会話の流れから、『彼女』というのは、シルビアの孫娘を指しているのは間違いない。

もし、誰かから、ライルとシルビアの孫娘との結婚の噂を聞いても、どういうことか本人に尋ねることが出来ただろう。

だが--

『これからはずっとそばにいるつもりです。必ず、幸せにします』

あれは、確かにライルの声だった。聞き間違うはずがない。



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