伯爵と雇われ花嫁の偽装婚約
それに以前、シルビアが屋敷に来て、クレアを励ましてくれた時、

『ライルは私の孫娘と幼なじみだった』

と言っていた。ということは、クレアが出会うもっと前から、ライルとシルビアの孫娘は互いを良く知っていたということになる。だが、シルビアの口調からは、二人が恋仲であるような感じは受けなかった。

シルビアの知らないところで、二人は気持ちを深め合っていたのだろうか。ライルが手紙のやり取りをしていたのはクレアだけではないことは、子爵の話からも明らかだ。では、子爵はいつから知っていたのか。子爵夫人は?アンドリューは?

皆で、クレアを欺いていたのだろうか。

……もう、よく分からないわ……疲れた……。

クレアは、テーブルの上に突っ伏し、目を閉じた。

でも、明らかなことは一つだけある。それは、ライルが選んだのは自分ではないということ--。

それだけは悲しい事実だった。







しばらく経って窓の外を見ると、夕刻の空が広がっている。季節はゆっくりだが着実に進み、最近は少しずつ、日が落ちるのも早くなっている。

そろそろ迎えが来る頃だ。クレアは、店の戸締まりをして、通りに出た。

だが、馬車が待つ、いつもの位置に行く足取りは重い。

……ライル様、大事な話がある、って仰ってた……。帰ったら、きっと聞かされる……。

聞いてしまったら、この関係は終わる。

まだ、心の準備は出来ていないのに。



嫌だ。怖い。帰りたくない--




クレアは急に踵を返すと、足早に反対方向へと歩き出した。






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