伯爵と雇われ花嫁の偽装婚約
「落ち着くんだ、クレア」

「もう、私のことは放っておいて下さい!」

「クレア!」

ライルは泣き叫ぶクレアの腕を強く引くと、そのまま抱きしめた。

「は、離して……!」

なおも、もがこうとするクレアをさらに強く抱きしめる。

「やめて……もう私に構わないで……私の心をかき乱さないで……」

泣きじゃくるクレアの耳元に、ライルは口を寄せた。



「よく聞いてくれ。レディ・シルビアの孫娘とは、君のことだ」




「……は……い……?」

思ってもいなかったライルの言葉に、クレアの涙が止まる。だが、すぐに首を横に振った。

「意味が……分かりませんっ…… 私がシルビア様の孫なわけないでしょう、ごまかさないでっ」

「君はレディ・シルビアのお気に入りなんだ。以前、叔父夫婦と一緒に、レディ・シルビアを見舞った時、君のことを親しみを込めて、孫娘、と言っているのを聞いたんだ。叔父はそれを真似て言ってみただけだ。俺もそれで話が通じたから、あえて言い直さなかった」

「……そんな……」

「君に聞かれて、誤解されてるとは思わなかったんだ。疑うなら、レディ・シルビアに直接聞いてもらってもいい」

「……」

クレアは全身の力が抜けるのを感じた。





「……じゃあ、私の思い込み……?」

「早とちりもいいとこだ。何で、その時に俺に聞かなかったんだ?」

「……だって、私すごくショックで……シルビア様のお孫さんの方が、ライル様に相応しいと思ったから……」





すると、ライルが深いため息をついた。

「俺は、一緒にもなりたくない女に、愛してるなんて言わないよ。伝わってなかったのかな」

「……ごめんなさい……」

気まずそうに謝るクレアの頭を、ライルはくしゃくしゃっと撫でると、笑った。

「とりあえず、帰ろう。皆が心配してる」

「……はい……」

差しのべられた手を、クレアはぎゅっと握り返した。


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