伯爵と雇われ花嫁の偽装婚約

「シルビア様……どうしてここに……？」

「ライルに呼び出されたの。俺の婚約者に説明しろ、って」

「え、ええっ、そうなんですか！？ そんな、わざわざ、申し訳ありません」

クレアが慌てて謝る姿を見て、シルビアは優しく微笑んだ。

「ふふ、冗談よ。あなたはいつでも真っ直ぐで素直ね。呼び出されたんじゃないのよ。あなたがいなくなったのは、私の発言が原因だと聞いて、私の口から話したいと思ったの」

シルビアはゆっくりと椅子に腰を下ろした。

「……少し聞いて下さるかしら？」

「はい、もちろんです」

「ありがとう。……実はね、私、魔女なの」

「は……い……？」

唐突に言われ、シルビアが冗談なのか本気なのか分からず、クレアは返答に困った。

シルビアは、優雅に微笑む。

「私は若くして主人を亡くしてね、その時、息子はわずか八歳だった。コールドウィン家を背負って立つには、あまりにも幼くて、私は女だてらに前に出て、息子を守るために必死になってたわ。時には周囲と結託して、息子を爵位から引きずりおろそうとする輩を排斥したりしてね。それが親族であっても、関係なかった」

「……」

「それで、陰ではコールドウィン家の魔女だなんて言われたりしてね。でも、息子を守るためなら、全然構わなかったの。いつしか、私は政治や経済の世界にも、顔を出すようになってたわ。でもね、私の周りに集まるのは、コールドウィン家の地位と名声にあやかろうとする者達で溢れかえってた。そんな人間関係に嫌気がさした私の唯一の心の拠り所が、孫娘だったの」

シルビアはふと、窓の外を見た。

「孫娘の名前はアイリーンというのだけれど……アイリーンの前だけでは、私はコールドウィン家のご隠居でも魔女でもなく、ただの、おばあ様でいることが出来たの。彼女といる時が、一番幸せだった。……でもね、数年前、流行り病で、アイリーンはこの世を去ったの」

「えっ……」

クレアは息を呑んだ。