伯爵と雇われ花嫁の偽装婚約
「ライル様、落ち着いて下さいっ……アンドリュー様!」

「ベッドで俺以外の男の名前を呼ぶなんて、ずいぶん余裕だね」

ライルが不機嫌そうに眉を上げた。

「ち、違います……、アンドリュー様がこっちを見てるんです……!」

「何っ……!?」

ライルが勢いよく振り返る。クレアの言葉通り、廊下に繋がるドアの隙間から、アンドリューが顔を覗かせていた。だが、ライルが恐ろしい形相で向かってくるのを見て、慌てて閉めようとしたが、ライルが取っ手を持つ方が早かった。

「アンドリュー、何してる?」

獣が低くうなるようにライルが尋ねる。

「ライル、お前、今、王子様とは程遠い、人様に見せられない顔になってるよ?」

「クレアに見られなければ問題ない。質問に答えろ」

「あはは……あー、えっと、母さんとライルに会いに来たんだけど、お前がクレアの所にいるって聞いて、でもノックしても返事が無いし、中から騒がしい声が聞こえてきたから、心配になって覗いてみたら、何かが始まりそうで……あ、言っとくけど僕に覗きの趣味は無いよ、ただ、クレアは結婚前だし、清い体のままの方がいいんじゃないかと思って、もし危なかったら止めに入ろうと……痛たたたた!」

最後が悲痛な叫びになったのは、ライルに耳を思い切り引っ張られたからだ。

「すぐ行くから、待ってろ」

バタンッ、と音を立ててドアが閉まる。

ライルはため息をついて、上着とネクタイを拾い上げた。

「叔母上が来てる。不在中、いろいろ心配を掛けたから、無事な姿を見せてくるよ」

「私も後から行きます」

「無理しなくていいよ。……それと、さっきは、ごめん。君の返事が嬉しくて、暴走してしまいそうになった」

「ええ、大丈夫です……それに、ライル様の気持ちは、充分伝わってますから……もう離れません」

恥ずかしそうに微笑むクレアを、ライルは再び腕の中に包み込んだ。


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