伯爵と雇われ花嫁の偽装婚約
「それはもちろん、私の可愛い恋人のクレアに会いに来たんですよ。まだ開店前のようでしたが、ドアの鍵が開いていたので、早くクレアに会いたくて入ってきてしまいました。失礼ながら、話も聞いてしまいました」

クレアは驚いて、目を丸くしてライルを見上げた。

「……じゃあ、クレアが結婚を約束した相手というのは……」

夫人が信じられないというふうな目付きで尋ねる。

「はい。私のことです」

即答するライルに、クレアは混乱した。何がどうなっている……?

「あ、あの……」

小声で何か言おうとするクレアに、ライルは素早く片目をつぶってみせた。

つまり、ここは自分に任せて話を合わせろ、ということなのだろう。

わけが分からないが、ライルがタイミング良く現れたのは、まさに天の助けだ。クレアはしばらく黙って見守ることにした。

だが、やはり夫人は訝しむように、言う。

「で、でも信じられませんわ。そんな話、私の耳には入ってきていませんし、そもそもクレアとあなたに接点はなかったはずでは……」

「実は、私は度々この店を訪れていましてね。私はただの客だったのですが、昨夜の舞踏会で自分の気持ちを伝え、求婚したところ、クレアは受け入れてくれました。ですから、恋人になってからまだ一日も経っていないので、ご夫人がご存じないのも無理はありません」

「……」

微笑みながらサラッと嘘を並べるライルに、クレアは開いた口がふさがらなかった。たが、怪しまれては困るので慌ててその口を閉じる。


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