伯爵と雇われ花嫁の偽装婚約
夫人に発言の隙を与える前に、ライルは続ける。
「それと、クレアはトシャック氏を叩いてはいませんよ。降りかかった火の粉を払おうとしただけです。私もすぐそばにいましたから、間違いありません」
「……火の粉……?」
「ええ。クレアを探して庭に出た時、トシャック氏が彼女を連れて茂みに入っていくのが見えました。慌てて追いかけましたが……これ以上は、女性の前で話すことではないので、止めておきましょう。とにかく、危ないところでした」
最後の方は、少し怒りが入り交じっているような、重い声色だった。
「彼のような人物は時々いますが、まだ社交界に出入りするようになって日が浅いのに、あの場で大胆な行動に出るのは、非常に珍しい。そうですね、誰かにそそのかされでもしない限り……」
「……ま、まさか、彼がそんな人物だとは知りませんでしたわ……」
驚いたふりをしているが、夫人は動揺を隠しきれていない。
ライルはそんな夫人を冷ややかに一瞥すると、
「では、話を戻すとしましょう」
と、先ほどと変わらぬ微笑みを浮かべた。
「トシャック氏との縁談を白紙に戻して頂きたいのです」
「……で、ですが、やはりクレアとあなた様では、不釣り合いすぎて、申し訳ありませんわ……」
すぐには首を縦に振らない夫人に、ライルは更に畳み掛けるように言った。
「持参金は不要です。彼女の身一つで我が伯爵家に来て頂ければ。それと、トシャック氏との間で取り決めがなされた、倍の額の生活資金をご用意させて頂きましょう」
「えっ」
夫人が小さく叫んだ。彼の発言には、今度こそクレアもポカンとして口を開けた。詳しい金額も聞かずに即決するとは、有り余るほどの富を築いているのか。
だが、別の人が言えば鼻に付くような言葉も、ライルの口から聞くと、すんなりと耳に入ってしまうから不思議だ。
……ん? ちょっと待って。
その時、クレアはハッとした。窮地に立たされた自分のために、今だけ婚約者のふりをしてくれているのは分かるけど、そのために、ライルが多額の資金を出すという、あり得ない、非常におかしな話の流れになっている……!
「それと、クレアはトシャック氏を叩いてはいませんよ。降りかかった火の粉を払おうとしただけです。私もすぐそばにいましたから、間違いありません」
「……火の粉……?」
「ええ。クレアを探して庭に出た時、トシャック氏が彼女を連れて茂みに入っていくのが見えました。慌てて追いかけましたが……これ以上は、女性の前で話すことではないので、止めておきましょう。とにかく、危ないところでした」
最後の方は、少し怒りが入り交じっているような、重い声色だった。
「彼のような人物は時々いますが、まだ社交界に出入りするようになって日が浅いのに、あの場で大胆な行動に出るのは、非常に珍しい。そうですね、誰かにそそのかされでもしない限り……」
「……ま、まさか、彼がそんな人物だとは知りませんでしたわ……」
驚いたふりをしているが、夫人は動揺を隠しきれていない。
ライルはそんな夫人を冷ややかに一瞥すると、
「では、話を戻すとしましょう」
と、先ほどと変わらぬ微笑みを浮かべた。
「トシャック氏との縁談を白紙に戻して頂きたいのです」
「……で、ですが、やはりクレアとあなた様では、不釣り合いすぎて、申し訳ありませんわ……」
すぐには首を縦に振らない夫人に、ライルは更に畳み掛けるように言った。
「持参金は不要です。彼女の身一つで我が伯爵家に来て頂ければ。それと、トシャック氏との間で取り決めがなされた、倍の額の生活資金をご用意させて頂きましょう」
「えっ」
夫人が小さく叫んだ。彼の発言には、今度こそクレアもポカンとして口を開けた。詳しい金額も聞かずに即決するとは、有り余るほどの富を築いているのか。
だが、別の人が言えば鼻に付くような言葉も、ライルの口から聞くと、すんなりと耳に入ってしまうから不思議だ。
……ん? ちょっと待って。
その時、クレアはハッとした。窮地に立たされた自分のために、今だけ婚約者のふりをしてくれているのは分かるけど、そのために、ライルが多額の資金を出すという、あり得ない、非常におかしな話の流れになっている……!