伯爵と雇われ花嫁の偽装婚約
……なぜライル様はここまで……。

おそらく、帰っても肩身の狭い思いをする自分に同情しているのだ。

だからといって何もせずに、このままここで居候のように生活するわけにはいかない。

……何か、ライル様のために出来ること……。

そうだ……!

クレアはハッして、ライルの立つ窓際に駆け寄ると、祈るように両手を顔の前で組み合わせた





「……ライル様……私をこのお屋敷で、雇ってください……!」





「……雇う……?」

ライルの瞳が大きく見開かれる。

「はいっ。あ、もちろん、お給金は頂きませんっ。その分を、返済に回して下さい! それで全額返せるとは思ってませんが、このままここで、ご厄介になるわけにはいきませんからっ」

世話になるだけなって、何もしないとあっては、クレアの気もおさまらない。彼女は必死に訴えた。

「だが……君は外で仕事があるだろう?」

「大丈夫です! 早起きは得意ですし、店に出る前まで、何か出来ることはさせてもらいたいんです。それに、夜遅くまで起きていても平気です。帰ってきてからも、働けます。小さい頃からずっと母の手伝いをしてきましたから、体力には自信があります!何でもやります!」

うん、これが一番良い方法だ。クレアは我ながら、これを思い付いた自分自身を誉めたいと思った。

ライルは少し考えるように壁の方に視線を向けていたが、やがて口を開いた。

「本当に……何でもするんだね?」

「はい、ライル様は恩人ですから、何かお役に立ちたいんです」

「……分かった。君を雇おう」

「あ、ありがとうございます」

聞き入れてもらい、ホッと胸を撫で下ろすと、クレアからの自然に笑顔がこぼれ出た。

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