伯爵と雇われ花嫁の偽装婚約
「とりあえず、座ろう」と、ライルに言われ、クレアはソファーに戻った。当然のように、ライルもその横に座ったが、クレアはもう何も言わなかった。

今は、ここでの仕事の話を聞くのが先だ。

ところが、ライルの開口一番の言葉はこうだった。

「君の体を俺に貸してほしい」




「なっ……!」

わわっと、クレアは反射的に飛び退くと、ソファーの一番端に移動し、すかさずライルと距離を取った。

「……さっきとおっしゃってることが同じに聞こえるんですけど……!」

「ごめん、言い方が悪かった。……貸してほしいのは、君の『存在』だ」

「……存在……?」

「ああ。君には俺の婚約者として、ここで生活してほしい」

「……」

……どういうことなの?

「……あの……さっきの私の話はちゃんと聞いてくれていましたよね……?」

「もちろん分かっているよ。正確には、そのフリをしてほしい。それが君の仕事だ」

「フリ……ですか?」

話がよく分からずにクレアは首を傾げる。

「なぜ、そんなことが必要なんですか……?」

クレアの問いに、ライルは小さく息を吐くと、天井を仰ぎ見た。

「世間では、俺は成功者のように噂されているけど、貴族が事業に手を出すことに偏見を持つ同業者は少なくないんだ。……特に独り身だとね」


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