伯爵と雇われ花嫁の偽装婚約
その顔を見て、クレアも胸を撫で下ろす。

良かった、お気を悪くされてないみたい……。


やがて、ある扉の前に着いた。ライルが開け、一緒にその中に入ると、ソファーや椅子といった家具や調度品が配置された空間が広がっている。

でも、先ほどの応接間と比べるとややこじんまりとしていて、重厚感は無く、どことなく安心出来る部屋だった。

「ライル様、ここは……?」

「居間だよ。談話室とも言う。家族が過ごせるプライベートな場所だ。しばらくは使われていなかったんだけどね。……こっちへ」

ライルがクレアを窓際へ誘う。

窓からは、この屋敷の庭園が一望出来た。応接間からも庭は見えていたが、緊張していたし、ライルが話す仕事内容に気を取られていて、はっきりとした記憶が無い。

改めて見る庭園の美しさに、クレアは言葉を失う。それに、あのコールドウィン侯爵邸の庭園と同じくらいの広さがあるのではないかと思う。

「向こうにバラ園がある。もうすぐ見頃になるはずだ。天気の良い日で、お互い時間が合えば、そこでティータイムを過ごすことも出来るよ」

「……本当ですか!?」

バラを眺めながらティータイムが楽しめるなんて! 今からクレアの胸が踊る。雇われてここにいることを忘れてしまいそうだ。

ソファーに二人で座り、ライルが街の暮らしに興味があるというので、クレアはこれまでの自分の生活を語った。大して面白い話は無かったにもかかわらず、ライルが真剣に耳を傾けてくれるのが嬉しくて、クレアもつい饒舌になっていく。

穏やかで楽しい時間が過ぎ、やがて庭に射す陽の光が陰り始めた。

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