伯爵と雇われ花嫁の偽装婚約
水を飲み、そのまま目を閉じていると。

ジュディではない、別の人物の靴音が近付いて来るのが分かった。

ふわり、と頭を撫でられ、クレアがうっすらと瞼を持ち上げると--

目の前の翠緑の瞳が、じっとこちらを見つめている。

「ラ、ライル様!?」

ビックリして飛び上がりそうになったが、足に力が入らず、腰が抜けたように再び椅子に倒れ込んでしまった。

「大丈夫?」

「……はい……すみません……」

「謝ることはないよ。今日はよく頑張ったね」

「……いえ……そんな……」

ライルの優しい眼差しで、不思議と疲れが飛んでいくような気がした。

次の瞬間、クレアの体が椅子から浮き上がる。

「……えっ、あのっ……」

軽々とライルに抱き上げられてしまったことに、狼狽していると、

「部屋まで連れて行くよ」

と、至近距離からライルの声が聞こえてきた。

「……い、いいですっ……自分で歩けます」

「こういう時は俺に頼って」

「でも……きゃっ……」

ライルが一歩踏み出すと、クレアの体が揺れて、思わず彼の首に抱き付いてしまった。

「うん。素直でいいね」

「な、何言ってるんですか……!」

羞恥で頬が一気に朱に染まる。

「こんなの、誰かに見られたら恥ずかしいです……!」



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