伯爵と雇われ花嫁の偽装婚約
あまりにも自然な流れに、クレアには抵抗する間も与えられなかった。

初めてキスをされた記憶が脳裏をよぎる。

あの時は一瞬だったが--今、ライルはすぐに離そうとしない。

だが決して強引ではなく、抑えたような、クレアの様子を気遣いながらのキスだ。

少し浮いて離れたかと思ったら、再び角度を変えて重ねてくる。

「ん……」

不意にクレアの喉の奥が鳴る。

こんなの、絶対おかしい!と、クレアは思うのに、疲れた体に力が入らず、頭が正常に働かない。

むしろ、優しく甘美な感触に、心も体も癒されていくようで、思わず目を閉じた。

やがて、そっと唇が離れ、その余韻に浸っていると、「参ったな……」とライルが呟いた。

「そんな顔見せられたら、もっと可愛がりたくなる」

耳元に低く響く声で、クレアはハッと我に返って目を開けた。

ライルの瞳が妖艶な光を宿しているようにも見えて、クレアの体が熱くなる。

「……!」

わ、私、今……ライル様と何を……!?

恥ずかしさのあまり、何も言えずに視線をそらすと、ライルはクレアの頭をくしゃっと撫でて、部屋から出て行った。





気を遣ってくれたのか、あるいは甘い二人を見ていられなかったのか、ジュディは奥の部屋に移動していて、今ここにいるのはクレア一人だ。

「……」

……恥ずかしかったけど、嫌じゃなかった……。
何だか気持ち良くて……。もう、どうしちゃったんだろう、私……。

クレアは魂が抜けたようにソファーに体を横たえると、その上に置いてあったクッションに無言で顔を埋めた。



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