伯爵と雇われ花嫁の偽装婚約
どうしようかな、とクレアは首をひねった。

今はちょうど午後のティータイムの時間帯だ。

いつもは店に出ている時刻だし、休みで屋敷にいる時はダンスのレッスン中なので、思えば、こんなにゆっくり出来るのは、ここに来て初めてだった。

バラはもう見頃だ。でも、ライルがいないので、一人で庭でお茶を飲む気にもなれない。

「図書室に行きたいんだけど……」

アディンセル邸にいた時とは違い、クレアはここでは自由に屋敷内を歩くことを許されている。

ブラッドフォード伯爵邸の図書室には様々な分野の書物が揃っている。窓のある面以外の壁は全て本棚になっており、天井近くの高い棚は梯子を使わないと手が届かない。

一人用や三人掛けといった、いくつものソファーが置かれているが、狭いといったような圧迫感は微塵も感じない。それほど、この屋敷の図書室は広大なのだ。

その中でも一番陽当たりの良い席に腰を下ろし、クレアは取り出してきたお気に入りの本を
ドレスの膝の上に広げる。

近くのテーブルに、ジュディがそっと紅茶の入ったティーカップを置き、「また後で参ります」と静かに言うと、図書室を出ていった。

ポカポカと午後の陽射しが気持ち良い。

しばらくすると、クレアの瞼がゆっくりと閉じ始めた。

意識が微睡みの中に引き込まれていくのが、分かる。

連日、外では仕事、屋敷では慣れないレッスンで、なかなか体が休まる時間が無かった。クレアの気持ちの緩みと共に、一気に疲れが押し寄せてくる。



完全に瞼が閉じ、薄れていく意識の中で、ソファーの軋む音がした。誰かが横に座ったのかもしれないが、睡魔に襲われた頭が、目を開けることを拒んだので確認出来ない。

眠気に落ちる瞬間の、ふわりと体の浮く感覚が何とも言えず、心地よい。

クレアはそのまま、夢の中に入っていった。


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