伯爵と雇われ花嫁の偽装婚約

目を開けて、まず視界に飛び込んできたのは、自室のベッドの白い天蓋だった。

レースのカーテンの隙間から、西へ傾き始めた陽の光がこぼれ、床にうっすらと線を描いている。

……あれ……? 私、図書室にいたはずなのに……。いつの間に……?

頭の中は疑問符だらけだ。

とりあえず、起きようとしたのだが--体が動かせない。

……え?

クレアは自分の胴に何かが巻き付いているのに気が付いた。それで動けないのだ。

視線を下に向けると、自分の体に誰かの腕が絡み付いているのが見えた。


……な、何……!?

ぎょっとして、唯一動かせる首を、恐る恐る反転させると--

「!!」

人間、本当に驚いた時は声が出ないというが、今のクレアが正にそうだった。

目の前には、淡い金髪の青年の、端正な顔があった。緑の瞳は閉じられているが、その長いまつ毛にさえ、魅入られてしまいそうだ。

……ラ、ライル様! 何で、え、何で!?

もう疑問符どころではない。完全に頭の中はパニック状態だ。

とにかく、ライルの腕をどけないことには、この状況から脱することは出来ない。クレアは何とか引き剥がそうとしたが、男の腕はガッチリと彼女の華奢な体を捕らえている。

どうしようもない状態に恥ずかしくて泣きそうになるが、クレアの耳にライルの規則正しい静かな寝息が聞こえてきた。

< 84 / 248 >

この作品をシェア

pagetop