伯爵と雇われ花嫁の偽装婚約
目を開けて、まず視界に飛び込んできたのは、自室のベッドの白い天蓋だった。
レースのカーテンの隙間から、西へ傾き始めた陽の光がこぼれ、床にうっすらと線を描いている。
……あれ……? 私、図書室にいたはずなのに……。いつの間に……?
頭の中は疑問符だらけだ。
とりあえず、起きようとしたのだが--体が動かせない。
……え?
クレアは自分の胴に何かが巻き付いているのに気が付いた。それで動けないのだ。
視線を下に向けると、自分の体に誰かの腕が絡み付いているのが見えた。
……な、何……!?
ぎょっとして、唯一動かせる首を、恐る恐る反転させると--
「!!」
人間、本当に驚いた時は声が出ないというが、今のクレアが正にそうだった。
目の前には、淡い金髪の青年の、端正な顔があった。緑の瞳は閉じられているが、その長いまつ毛にさえ、魅入られてしまいそうだ。
……ラ、ライル様! 何で、え、何で!?
もう疑問符どころではない。完全に頭の中はパニック状態だ。
とにかく、ライルの腕をどけないことには、この状況から脱することは出来ない。クレアは何とか引き剥がそうとしたが、男の腕はガッチリと彼女の華奢な体を捕らえている。
どうしようもない状態に恥ずかしくて泣きそうになるが、クレアの耳にライルの規則正しい静かな寝息が聞こえてきた。