伯爵と雇われ花嫁の偽装婚約
……寝てる……の……?

ふと、ローランドの言葉が脳裏をよぎる。

『若くして爵位を継がれた旦那様は、この伯爵家のために、これまで力を尽くしてこられました』

『人知れず、努力なさっているのです』



……表には出さないけど……きっと、とてもお疲れなのだわ……。

ここで自分が動いたりしたら、ライルの眠りを妨げてしまうかもしれない。

それも悪い気がしてきた。

クレアは少し考えた結果、しばらくこうしていよう、と思った。なぜ目覚めたら自分がライルの腕の中にいたのか、疑問は残るが、今は彼をゆっくり眠らせてあげたい。

それに……ライルの腕の中は温かくて、何だかホッとする。

「……」

彼のため、というのは言い訳だと気付く。クレア自身が今、こうしていたいのだ。

……今だけなら……いいよね……。

ライルの体の温もりが、まだクレアの体に残っていた眠気を誘う。

しばらくすると、クレアの瞼もゆっくりと下がり--やがて、彼女も穏やかな寝息を立て始めた。


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