伯爵と雇われ花嫁の偽装婚約
「その時は、クレアも一緒だけどね」

隣に座っていたライルから急に手を握られ、ドキッと心臓が跳ねる。もういい加減慣れてもいい頃なのに、なかなか心は順応しない。

そんなクレアの反応をアンドリューはチラリと見た。

「初々しいね。こんなに仲の良い二人を見せつけられたら、大半の令嬢は失神するだろうね」

それを聞いたクレアは、やっぱりライルは世の令嬢の憧れの的なのだと、今更ながらに思った。となると、自分はそんな令嬢達の嫉妬の対象になるのではないか。

「クレアの前でそんな話はやめてくれないか。彼女が不安がる」

ライルがクレアの手を優しく撫でた。じんわりと温かさが伝わってくる。

「ごめん、悪かった。あなたに不快な思いをさせるつもりはなかったんだ」

アンドリューに真面目に謝られて、クレアは逆に恐縮した。

「そんな、不快だなんて、とんでもありません」

薄灰色の――ライルがパールグレーと呼んだ色の瞳を大きく開いて、真っ直ぐにアンドリューを見る。

その視線を受けて、アンドリューはなぜか困ったように、目をそらした。

その後は、他愛の無い世間話が続いた。



「そろそろ失礼するよ」

しばらくすると、アンドリューが立ち上がった。

「もう少し話をしていたいけど、予定があるんだ。それに、今日ここへ来た目的も果たせたしね」




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