伯爵と雇われ花嫁の偽装婚約

「目的？」

ライルが聞き返す。

「ああ。婚約の噂を確かめに来たんだ。誰も外で二人の姿を見た人はいないし、もしかして、ただの女除けとしての噂を流しただけなんじゃないかと思ったけど……本当に存在してたんだな」

アンドリューはクレアの方を見て、悪戯っぽい笑みを浮かべた。

「また来ますよ。今度はゆっくり話したいな。僕の方があなたより、ライルのことについて詳しい。いろいろ教えますよ」

「え、はい……」

またいらして下さい、と勝手に答えていいものかどうかクレアが悩んでいると、先にライルが口を開いた。

「どうせ、今日もどこかの夜会に行くんだろう？ 早く帰らないと、遅れるぞ」

「社交シーズンもあっという間に終わるからね。じゃあ、またな」

アンドリューは笑いながら、部屋を出ていった。






晩餐までまだ少し時間がある。執事が呼びに来るまで、ライルとクレアは談話室のソファーに座って、過ごすことにした。

「急に連れてきて悪かったね」

「いいえ、そんな。大丈夫です。それよりも、私、ちゃんと挨拶が出来ていましたか……？」

顔中に不安の色を広げるクレアに、ライルは優しく微笑んだ。

「ああ。上出来だ。とても美しかったよ。君が日々、努力した結果だ」

「ありがとうございます……！」

心配だった分、誉められて嬉しい。喜びも倍増だ。

これから、二人で外に出れば『ライル・ブラッドフォードの婚約者』として、振る舞わなければならない。ライルに恥をかかせるわけにはいかない。突然のアンドリューの来訪に心の準備は万全ではなかったが、クレアにとって小さな第一歩となったのは確かだ。