伯爵と雇われ花嫁の偽装婚約
「お二人はとても仲がよろしいのですね」

「そう見えた?」

「はい。まるで本当のご兄弟みたいで。私といる時とは違うライル様の一面を見た気がします」

フフッと、クレアが柔らかい笑みをこぼす。

「ちょっと羨ましいです。私には従兄弟も、兄弟もいなかったから……」

言いかけてハッと口をつぐんだ。

従兄弟はいないのは事実だが……腹違いの妹と弟は、いる。
こんな時、いない、とすぐに答えてしまうのは、やはり、ヴィヴィアンとデイヴィッドを妹弟として意識していなかったのだと、改めて痛感する。

変に思われていないだろうか、と横目でライルを見たが、彼はいつもと変わらない様子だった。

「そうだね、彼とは歳も近いし、お互い一人息子だから、小さい頃は兄弟みたいによく遊んでたよ」

ライルは少し遠い目をした。

「十五歳で爵位を継いでから成人するまで、アンドリューの父親……叔父のイーストン子爵が俺の後見人を務めてくれた。とても世話になったよ」

「……そうだったんですか……」

初耳だった。前から気になっていたが、ライルがこの伯爵家の当主になったのが、わずか十五歳だったとは。

まだ少年だったライルの肩にのしかかった名門伯爵家の重責は、どれほどだっただろう。

心が押し潰されそうになったことも、眠れない夜を過ごしたことも、あったかもしれない。

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