伯爵と雇われ花嫁の偽装婚約
いつの日だったか、ライルは、家にいる時は一人で食事をしていた、と言っていた。

きっと、それ以前に母親も亡くなっていたのだろう。

いつも優しくて、笑顔も素敵で、優雅で、絵から出てきた王子様のような青年。決して、疲れた様子や、弱い姿を表に出すことはしない。

だが、彼があの時一瞬見せた、揺れるような瞳に映ったのは、孤独の影だったのか――

クレアは無意識のうちに、ライルの手に自分の手を重ねていた。

初めてクレアから触れられたことに、ライルが内心かなり驚いて視線を上げると、何かを訴えるような様子のパールグレーの瞳が、こちらをじっと見つめていた。

「ライル様……私がここにいる間は、一緒に食事しましょう!」

「え……?」

なぜ、クレアが改めてそんなことを言い出したのか分からないライルは、思わず目を見張った。

「それに、寂しくなったら、呼んで下さい!」

「……クレア?」

「このお屋敷の中なら、いつでもどこでも駆けつけますから!」

重ねた手に、力を込める。必死になっていたので、クレアは知らず知らずのうちに、ライルの方に身を乗り出していることに気付かなかった。

すると、ライルは手のひらを返し、クレアの指を絡めるようにして握ると、もう片方の手を彼女の腰に回して、ぐいと引き寄せた。

「あ、あの……ライル様……?」

急に体勢が変わり、互いの体と顔が近くなったことに、クレアは戸惑いを隠せない。

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