伯爵と雇われ花嫁の偽装婚約
三日後。

緑の木々が揺れる午後の暖かい日射しの中、クレアはブラッドフォード邸の庭園の一角を歩いていた。

ダンスのレッスンが終わってから夕食までの間は、クレアにとって束の間の休息だ。

動きやすいように、スカート部分の膨らみが少ない淡い黄色のドレスを選んで、ジュディに言った。

『お庭に出てくるわ。一人で行けるから大丈夫。すぐ戻るから』

『では、これをお持ち下さい』と、ジュディからつばの広い同系色の帽子を渡された。日焼けはレディにとって大敵だ。

ハーブ専用の花壇もある、と前にジュディが教えてくれた。店でも少しハーブティーを扱っているが、実際に育っている所を見たことが無いので、一度観察してみたかったのだ。

初めの頃は、レッスンが終わると疲れ果てて、部屋でぐったりして気付いたら夕食の時間になっていた、なんてことが多かったが、最近はわずかな時間でも楽しもう、と少し気持ちにも余裕が出てきた。

図書室から拝借した分厚い植物図鑑を腕に抱えて庭を進む。

前方に、いつかライルが言っていたバラ園が見えた。徐々に近付くにつれ、色鮮やかに咲くたくさんのバラがクレアの視界を埋め尽くし、うっとりするような良い香りに包まれる。

ここでティータイムを一緒に過ごす、という明確な約束はしていない。お互い時間が合わなかったり、合っても天候が悪かったりして、今日に至っている。

……今が一番見頃かしら……。時期が終わってしまったら、また来年ということに――。

そこまで考えて、胸が苦しくなった。




来年、自分は果たしてここにいるのだろうか。



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