伯爵と雇われ花嫁の偽装婚約
「浮かない様子だけど、どうしました?」
後ろから若い男の声がして、クレアはハッと振り返る。
明るい茶色の髪の青年がそこに立っていた。上着を脱いで片手に持ち、白いシャツと紺色のネクタイとベストだけの着崩した格好だが、どこか気品がある。
「……イーストン様……」
「はは、堅苦しいな。アンドリューって呼んでよ」
屈託の無い笑顔で、アンドリューが言った。
「お越しになられていたんですね。気付きませんで、失礼致しました」
「いや、気にしないで。急に来たのは僕だから。今日は一人なんだね」
「はい……」
ダンスのレッスン終了後、先刻ライルが帰宅したとジュディから聞いた。ローランドの話だと、そのまま書斎にこもって仕事をしているという。
「ライル様はお忙しいので……。アンドリュー様もライル様に会いにいらっしゃったんですか?」
「うん。でも、忙しいから後にしてくれ、って放り出されたよ」
「そうなんですか……」
「暇だから、庭を眺めてたら、あなたの姿が見えて、追いかけてきたんだ。良かったら、少し話をしませんか?」
「え、ええ……」
特に断る理由もないので、二人並んでバラ園の中を進む。
やがて小さな休憩所の屋根が現れた。その下の白いベンチに二人で腰掛ける。
ちょうど日陰になっていて、屋根と柱だけの構造なので、壁が無い分、風が吹き抜けて心地よい。
後ろから若い男の声がして、クレアはハッと振り返る。
明るい茶色の髪の青年がそこに立っていた。上着を脱いで片手に持ち、白いシャツと紺色のネクタイとベストだけの着崩した格好だが、どこか気品がある。
「……イーストン様……」
「はは、堅苦しいな。アンドリューって呼んでよ」
屈託の無い笑顔で、アンドリューが言った。
「お越しになられていたんですね。気付きませんで、失礼致しました」
「いや、気にしないで。急に来たのは僕だから。今日は一人なんだね」
「はい……」
ダンスのレッスン終了後、先刻ライルが帰宅したとジュディから聞いた。ローランドの話だと、そのまま書斎にこもって仕事をしているという。
「ライル様はお忙しいので……。アンドリュー様もライル様に会いにいらっしゃったんですか?」
「うん。でも、忙しいから後にしてくれ、って放り出されたよ」
「そうなんですか……」
「暇だから、庭を眺めてたら、あなたの姿が見えて、追いかけてきたんだ。良かったら、少し話をしませんか?」
「え、ええ……」
特に断る理由もないので、二人並んでバラ園の中を進む。
やがて小さな休憩所の屋根が現れた。その下の白いベンチに二人で腰掛ける。
ちょうど日陰になっていて、屋根と柱だけの構造なので、壁が無い分、風が吹き抜けて心地よい。