愛と音の花束を


歯医者の椅子の上で、口を開け、目を閉じる。
やることがないので、頭の中で考え事し放題の時間。

この人はどんな風に女性を愛するんだろうか。
このまま、ひたすら優しく、明るく?
甘えたり、甘えさせたり?
たくましい腕に抱きしめられて、厚い胸に顔を埋めたら気持ちいいだろうなぁ、という妄想が頭をよぎり、だめだこれは、完璧にハマりつつある、と心の中でため息をつく。





次の水曜日、オケの練習日。

何というタイミングか、椎名がトップサイド当番、つまり私の隣で弾く番。


……上手くなったなぁ。

弾き方が、三神君に似てきた。
お手本にしてるのかな。


そして、音楽が、この曲が、好きなんだな、と感じる。
目立たない伴奏の刻みやピチカートも、ちゃんと愛情を持って弾いてるのが伝わってくる。
しつこいというのではなく、弾き捨てない。面倒くさがらない。
こういうところ、いいなぁ、と思う。



「上手くなったね」

練習終了後、思い切ってそう言うと、椎名は嬉しそうに、クシャっと笑った。

「結花ちゃんが励ましてくれたおかげ」

……まいったな。

私の言葉で、そんな風に笑ってもらえることが、こんなに嬉しいなんて。




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