愛と音の花束を
彼は静かにヴァイオリンを構え、早瀬先生にうなづいた。

彼女の短いブレスで、オケの序奏が始まる。
打ち合わせの時と全く同じテンポ。さすが。

そして、ソロが入る……

っ‼︎
覚悟してたけど、すごい‼︎
弾きながら全身に電流が走った。

たったひとりの強烈な気迫に、約50人が負けてる……!

ヴァイオリンとヴィオラの細かい八分音符がリズムに乗り切れずソロを邪魔してる。小節頭で四分音符を入れる低弦のピチカートに助けられる。チェロトップの真木君が珍しく『俺について来い』的な演奏をしてくれてる。さすが一度三神君とコンチェルトやってるだけあってこうなることは想定内だったんだろう。
20小節からクレッシェンド。一小節ごとに木管楽器が増えていく。オケの音量にソロヴァイオリンがかき消されてしまう、なんて心配は無用だった。ハリのあるハイトーンが突き抜けて響く。
最初の盛り上がりの山はトランペット以外のオケトゥッティ、フォルテ四分音符4つ。
続いてソロだけで細かいパッセージ。うねる音型から情熱が溢れ出す。
そっちはその程度?と言われた気がした。
ソロの後、オケがまた同じ音形で相の手を入れる。駄目だ、揃わない音程悪い音汚い。
ここまでおいで、と言わんばかりに、三神君は全開で弾く。挑発だ。それに気づける人がどれくらいいるのか。
もう一度オケが相の手、今度はフォルテ四分音符2つ。
少しだけキレが増したけれど、歯が立たない。
ソロは一旦メゾフォルテに落とす。
あ、抜いた。音量のせいだけではない。ほんのわずかだけど、気迫が緩んだ。
そっちがその程度なら、まだ本気出す必要ないでしょ?という気持ちが透けて見える。
悔しいやら申し訳ないやら。
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