愛と音の花束を
椎名はステージに上がってきた。

そして、いつもと変わらない機嫌の良さで、「ここ、座ってもいい?」ときいてきた。

そこは、セカンドヴァイオリントップの席。

「どうぞ」と答えると、椎名はゆっくりと腰を下ろした。

その席から見えるステージの風景を、興味深そうに見回している。

白シャツに黒パンツ、黒革靴。つまりは礼服のジャケットを着ていない格好。
……結婚式のタキシードも似合うだろうな、とバカなことを思った。

彼は、客席に目をやった。

「3年前、ラフマニノフの交響曲2番やったでしょ?」

「……やったね」

もう3年前になるのか。

「初めてこのオケ聴きに来たのがその時。うちに治療に来た設楽先生にチケットもらって、大して期待せずに来たんだけど」

そこで椎名は笑った。

「期待以上に面白かった。ラフマニノフのドロドロウネウネメロメロロマンティックをこれでもかってくらい表現してて。しかもコンマスは滅茶苦茶上手いし。あの色っぽいソロは今でも覚えてる」

あの時のコンマスは三神君。
ラフ2には、少しヴァイオリンソロがある。

「セカンドヴァイオリントップは、表情豊かで、1時間見てても全然飽きないし」

…………は?
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