愛と音の花束を
「生オケの何が楽しいかって俺の場合人間観察なんだけど、コンマスは前半ずっと見てたから、メインではセカンドトップ観察することにしたの。
最初入ってきたときは、背が高いなあ、ツンとしたクールな感じの人だなあ、と思ったんだけど、激しいところでは情熱的に弾くし、甘いところではうっとりした顔して弾くし、何だ、全然クールじゃなくて、実は熱い人なんだなって」

うそ。やだ。全く自覚なし。そんなの初めて言われた。
思わず自分の頬を押さえてしまった。

「2楽章の中間部、セカンドヴァイオリンから始まるところ。ザッツで、セカンド行くよ!って青い炎がブワッと出た感じがして、うわーカッコいいと思った」

……ああ、あそこね。
セカンドヴァイオリンがほぼ裸で4小節を弾かなくてはならない。その後はファースト・ヴィオラと絡みながら、早いスピードで進んでいく。

「あのスケルツォ中間部はアマオケでは事故多発地帯だと思うけど、他の部分と違って、みんなが気合いだけじゃなくちゃんと弾きこなしてるのを見て、トップがすごい練習させたんだろうなって」

それはそれはもう、練習では事故が多発した。だから、私も腹を括るしかなかったのだ。

「……あの時は、嫌われてもいいと思って、弾けてない人を個人的につかまえてしつこく練習させたから」

「うん。そういう覚悟と熱意が伝わってきたから、この人と一緒に音楽がやってみたいなぁと思った。で、設楽先生に頼んで、ヴァイオリン教えてもらうことにした」

……そんな優しい表情で、優しい声で、そんなこと言わないでほしい。

耐えられずに、視線をそらす。

涙を懸命にこらえながら。

「だから、そういう人にスポットライトが当たる日が来て、すごく嬉しい。そして、俺はそんな憧れの人と一緒に音楽ができて、すごく嬉しい」


…………胸がいっぱいで、言葉が出てこない。
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