愛と音の花束を
ステージ中央まで歩いてきた三神君と早瀬先生。
早瀬先生がオケを起立させる。

三神君は私に握手を求めてきた。
自信に満ち、微笑みを浮かべた彼に一瞬見惚れながらも、立ち上がり、手を握る。

少し汗ばんだ、でも、温かい手。

ほっとした。緊張で手が冷たくなってコントロールがきかない、ということはないだろう。

続いて、早瀬先生も、私に手を差し出して来た。短い握手だったけれど、さあ、行きましょう、という気持ちが伝わってきた。相変わらず存在だけでこちらのテンションをあげてくる。

三神君は、指揮者とファーストヴァイオリンの間、ソリストの位置に立ち、客席に向かってお辞儀をした。

清々しく、
神々しく、
ため息が出るほど、美しい。

困難なことに、全力を持って立ち向かう姿は、人間の尊さを感じさせてくれる。

彼のお母様のことを思う。
「いい男になったわね」と笑った顔が浮かんだ。


オケが着席し、早瀬先生が指揮台に上がると、拍手がやんだ。

静寂のなか、緊張感と期待感がホールに満ちる。

三神君はヴァイオリンを構え、客席に視線を送った。
これから音楽を届ける人を想ったに違いない。

それから早瀬先生に向かって、行こう、というように、うなづいた。

早瀬先生は微かに微笑み、指揮棒を構えた。

私達も、楽器を構える。

早瀬先生は一瞬でオケを見渡し、
メンバーの意識が自分に集まっているのを確認し、
すっ、と息を吸って、

指揮棒を下ろした。



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