愛と音の花束を
カデンツァ。
ソリストひとりで音楽を奏でる見せ場。
オケメンバーもソロに浸れる数少ない時間だ。

ソロヴァイオリンの音だけが、ホールに響き渡る。

テンポが思いっきり揺らされ。
抉るような低音と、透き通る高音が、交互に訪れて。


……うわぁ。

……さすがの私でも、顔が赤くなってしまうくらいに、

……何ていうか、

……官能的で……

ええと、愛情全開で口説くさまを見せつけられているというか……

でも決して下品にならずに、上品で、崇高な印象さえ与えるのだから、さすがは三神君というべきか。恐れ入る。

ただ、公衆の面前でこれは、三神君の彼女はどんな気分なのだろうか。
同情する……。




カデンツァが終わりに近づき、私は楽器を静かに構える。
この後、カデンツァに続くのは再現部。ソロヴァイオリンのアルペジオに乗って、ファーストヴァイオリンとフルートとオーボエが第1主題を奏でる。有名なだけに、ただ弾くだけではものすごくダサくなりかねない厄介なメロディ。

早瀬先生を見ると、私と目を合わせ、ニヤっと微笑んだ。
さあ、このカデンツァの後、どう弾く?というように。

あんなカデンツァ聴かされた後で、しらーっと弾く奴がいたら、このオケから叩き出します。後ろ、分かってるよね⁉︎

視線でそう答えると、彼女は、「だ、そうです」というようにファーストヴァイオリンの後ろを見やった。
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