愛と音の花束を


今日が年内最後のオケの練習。

暁から、練習後、食事に誘われていた。珍しく先週から予約される形で。


駅近くのビルに入っているお洒落なレストランで食事をした。
お会計は、暁が払ってくれた。
今までは割り勘だったのに。


ビルを出ると、ペデストリアンデッキの並木に取り付けられたイルミネーションが青く光って、ロマンチックな雰囲気を醸し出している。

「昔はこんなのなかったなぁ」

暁が言う。

「そうだね」

「きれいだね。駐車場まで、少し、遠回りして帰ろうか」

今日の彼は、いつもと少し違っていた。

……その、男性として、私に接してくる、というか。

平たく言うと、距離感がすごく近い。付き合ってた頃みたいな近さ。

並んで歩き出すと、暁が、私の手をそっと握った。

指が優しく絡んでくる。



……ああ。

……不意に、泣きたくなった。



–––––––やっぱり、昔には戻れない。



前だったら、手を繋いだだけでドキドキして、すごく嬉しくて、幸せで、ずっとこのままでいたいと思ったのに。

今の私は、ドキドキしないし、寒いし夜遅いし疲れてるから遠回りはちょっとしんどいな、とさえ思ってしまっている。


少し前から、暁が私のことを好きなのかな、とは気づいていた。
傲慢かもしれないけど、付き合ってたからそういう気持ちは伝わってきてた。

私ももう一度好きになれるかと思って、食事を重ねたけれど、昔みたいに、触れたいとか、触れてほしいとか、思えなかった。

……現に今、こうして手を繋いでも何とも思わないって、致命的だ。

あんなに大好きだったのに。

でも、“大好きだった”と冷静に振り返れること自体、すでに彼とのことは過去形になってるという証拠なんだろう。

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