愛と音の花束を
「をを、暗譜でいくとは2人ともチャレンジャー」

隣で環奈が呟いた。

確かにグランドピアノの譜面台はどちらも立てられていないし、那智も早瀬先生も手ぶらで入場してきた。

早瀬先生は定演本番、どの曲も楽譜なしで指揮したから、暗譜に自信があるのは分かる。

問題は那智だ。
フランクのヴァイオリンソナタは暗譜で弾いてた。
ただ、あっちは5分程度だし音符もそれほど多くない。

一方、この組曲『動物の謝肉祭』は小品が14曲で、20分ちょっと。しかもピアノは音符がものすごく多い。
作曲したサン=サーンスは10代前半にピアニストとしてデビューしていた天才。ゆえに、彼が作る曲のピアノは音符が細かいし難しくて苦労する、とプロのピアニストが愚痴っているのを聞いたことがある。

ハラハラしながら聴くのはちょっと嫌だな。
小節、すっ飛ばしませんように。
音符、間違えませんように。

私の心配をよそに、那智は緊張した様子もなく、三神君を見ながらAの鍵盤をポーンと押した。表情からは、ワクワクしてるのがこちらに伝わってくる。

……彼のことだ、大丈夫かも。
ストイックに練習して、自信を持ってこの場に臨んでるはず。
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