愛と音の花束を
『化石』が終わると、チェロの真木君が立ち上がった。
早瀬先生の後ろに椅子を移動させる。
観客に向かって椅子を置き、座り、チェロを構える。
そしていつも通りの涼しい顔で、ピアノ2人に合図を送った。

さあ。いよいよ来る。

第13曲『白鳥』。

言わずと知れたチェロの名曲。

2台のピアノの静かな前奏。
ファーストピアノがアルペジオ、セカンドピアノが重音。
キラキラ輝く水面と、ところどころに静かに広がる波紋。
頭の中に湖の風景が広がる。

真木君がふわっと微笑んだ。

彼は弓が弦に触れる一瞬前から、ヴィブラートをかけはじめ、

弓を引くと、

すぅっと白鳥が泳いできた。

優雅で、気品ある白鳥。

チェロ独特の深みのある音からはもちろん、美しい弾き姿からも、白鳥が連想されるほど。
弓が弦に吸い付くような、なめらかなボウイング。
ヴァイオリンと少し違う、大きくかけるヴィブラート。
大きなチェロを抱えて慈しむように鳴らすその姿からは、普段の涼しく生意気な顔・ツンとした態度は想像し難い。

それにしても、いい音出すなぁ……。
しかも、自然な、ゆったりとした呼吸感のフレージング……。
澄んだ空気を吸った時のような気持ち良さに、思わず深呼吸したくなる。

全く、うちのオケはどれだけ人材豊富なんだ。
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