愛と音の花束を
コンサートマスターは、大抵一番ヴァイオリンが上手い人が務める。
我が団のコンマスは、三神圭太郎。20代後半のサラリーマン。彼の演奏をきいた人間が、なぜプロの道に進まなかったのかと思ってしまうくらい、ヴァイオリンが上手い。
地元の国立大学を卒業後、地元の会社に就職すると同時に入団してくれて、2年前からコンマスを務めてくれている。

美しい弾き姿はオケの中でも際立ち、それだけでファンがついている。
椎名氏もそのクチなのだろう。


「これからは、どの程度弾けるか確かめさせていただくだけですので、リラックスして弾いてください」

コンマスが穏やかに告げる。

……そんなこと言われて緊張するなという方が無理だと思うけど。

「では、早速始めましょうか。ファーストポジションでのスケールから。このEs-dur、デタッシェで。テンポは任せます」

コンマスがスケール教本を示して言った。
微笑んでるけど目は笑ってない。

Es-durはミのフラットから始まる音階。フラットが3個つく。
簡単な方ではない。
弦楽器、シャープよりフラットが弾きにくいのだ。
最初にこれを弾かせるあたり、コンマスは結構いやらしいと思う。
それを言うとたぶん、1音は開放弦使えるからまだやさしいです、とか返ってくると思うので、私は何も言わず従うのみ。
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