イケメン貴公子のとろけるキス

時間が止まってしまったかと思った。
呼吸すらしていることを忘れてしまった。

不意にルカの顔が私に近づいてくる。

キスされる!

一瞬にして私の身体が強張り、思わず目を閉じる。
金縛りにかけられたみたいだった。
身動きひとつできない。
神経という神経が、一点に注がれる。

緊張が頂点に達したそのとき、髪の毛にチュッと音を立ててやわらかい感触が当たった。
目を開けると、ルカの顔が私から離れていくところだった。
キスをされたのは唇ではなく髪の毛だったことに、恥ずかしさが込み上げる。

目を閉じて待つだなんて、ルカに“勘違い女”だと思われたかもしれない。
唇にキスされるとでも思っていたのかと。

それでも、キスはキス。
場所はどこであれ、それに変わりはない。
早鐘を打つ心臓は、今にも転がり出してしまいそうなほどに暴れる。

これは、イタリア人の習慣。
キスは挨拶のひとつだ。
そう言い聞かせて、胸の暴走をなだめる。

ところがそれは無駄な努力で、ルカの存在は、確実に私の心を浸食し始めていた。

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