【第二章】狂気の王と永遠の愛(接吻)を
アオイをアレスやカイへ託したダルドは城の中の自室へと足早に戻ってきた。
扉を後ろ手に閉め、積み重なった書物に手を掛ける。
(刀について書かれていたのを見たことがある……)
武器を生成する能力に長けたダルドは、国の宝ともいえる魔導書を持ち出すことを許されている。
とても深い歴史のあるそれらには見たこともない武器やどこで見聞きしたかもわからない種類の武器についてまでが幅広く記されるかなり貴重なものだ。
「どこに置いたっけ……」
机の上にあるすべての山に目を通し終えたころ、最下部にある大きな引き出しの中へいくつかしまっていることを思い出し手を掛けた。
上質な家具をあてがわれていたために引き出しはスムーズに開いたが、指先に感じた重みから想定されるのは辞典ほどの厚みがあるものなのかもしれない。薄っすらと残る記憶と合致して期待に胸を膨らませるダルド。
やがて姿を見せたそれは数百年もの長き間、誰の目にも触れることのなかったであろうその中に求めていたものはあった。
古びた布張りの紺色の表紙にはもはや色褪せて読めない文字が連なっていたが、研究熱心なガーラントが保管する場所を内容ごとにまとめていたため、ダルドはそのあたりの書物をまるごと持ち出していたのである。
長き年月と人の手を要し、両手に収まりきらないほどの厚みを書き上げた情熱にダルドはいつも感服させられる。
『彼らの知識を使わせてもらっているだけの僕は……到底彼らの足元に及ばない』
そう言うダルドに<大魔導師>ガーラントは首を横に振って答えた。
『先人の知恵も使える者が現れてこそ生きるというものですじゃ。
ダルド殿が残した記述も、やがて後世に語り継がれますぞ!』
『僕はまだそんなに大きな発見をしたわけじゃないよ』
『ふぉっふぉ、まだ一度も生成されたことのない魔導書のページがいくつもありましょう?
それは使い手が未だに現れていないことを意味しておりますのじゃ。そこが埋まったとき、どんな武器が誰の為に創られたか……その魔導書の中で物語は始まりを迎えるのです』
『……キュリオの神剣のこともここに載ってる?』
素朴な疑問だった。神に与えらえたというキュリオの神剣がどのように誕生したか……武器を生成する術者としてダルドは興味があるのだ。
だが、自分にとって目に見えない神の存在などどうでもよかった。
自分を救ってくれた彼こそが唯一無二の存在であり、神だと言っても過言ではないからだ。
『……うむ。歴代の王たちの神剣についてはかなり詳しく書かれております。王の御名とともに神剣の姿かたちが描かれていたはずじゃ』
彼に開くことができない書物もいくつかある中で、開けるものはすべて熟知しているガーラントだからこそ答えることができる内容だった。
そしてガーラントが歴代の王たちに興味が湧かないはずがない。王に次ぐ実力者として<大魔導師>は崇高な存在として崇められているが、実際は王の影に隠れてしまうほどにその力の差は歴然としている。人間を超越した存在……それほどに王とは手の届かない特別な人物なのである。
『そうなんだ』
『面白いものじゃよ! 侍女らが記録した物もあとでみてみますかの?
昼に寝て、夜に執務をされる王もおったそうで日が昇っている間に騒がしくすると怒られたと……夜型の王の話がなかなかに面白いのですじゃ!』
ダルドやガーラントが基準とする王はやはりキュリオだ。
キュリオを中心として城に仕える従者たちは動く。だからこそ彼から遠い性格の人物であればあるほど違和感というものが付きまとうため夜型の王の話を目にしたガーラントが面白く思えるのもわかる気がする。
『僕はキュリオの前の王様のことが気になる。凄い人だったってキュリオが言うから……』
ダルドが敬愛してやまないキュリオがそこまでいう人物をダルドはどうしても気になるのだ。
『ふむ。セシエル様じゃな……』
急に歯切れの悪くなったガーラント。
なにか思うところがあるのだろうか? しかし、この悠久で彼を知るのはもはやキュリオだけのはずだ。
『どうかした?』
調子が変わった大魔導師にダルドは手にした書物を置いて問う。
するとわずかな沈黙が流れて……
『うむ……セシエル王はちと謎の多い御方なのですじゃ。
儂も詳しくわかりませんが、彼の最後を見た者がおらんのです。
……まだ御存命であるという可能性もゼロではなく……』
ガーラントも口にしながら予測の域を出ていないようだった。
しかしそんなことが可能なのだろうか? だが、当時第一位だったという偉大なセシエル王がどれほどの力を秘めていたか……それさえも謎なのである。
『……キュリオが王になってから五百年以上も経ってるのに生きていられるの?』
『セシエル様は千年王になり得た御方だったとキュリオ様はおっしゃっておりましたのじゃ』
『まだ力が残ってる?』
『うーむ……なんとも言えませぬが、恐らく目的あって王座を渡された可能性をキュリオ様は示唆されていたことがありましたが、キュリオ様の御記憶にところどころムラがおありのようなのです』
『セシエル様の言ってたことは一字一句覚えてるってキュリオは言ってたけど……違うの?』
キュリオが模範とするセシエル王。
彼の教えることすべてを吸収しようとした当時のキュリオは神童とも言われていたため、本当に一字一句覚えていてもなんら不思議はない。
『……セシエル様は時間の横の軸を操れたと聞いたことがあります故、もしかしたらキュリオ様の時間軸にセシエル様が関わっているのではないかと……恐れながら儂は推測しております。
時間軸を操る……想像もつかないとてつもない御力じゃ』
扉を後ろ手に閉め、積み重なった書物に手を掛ける。
(刀について書かれていたのを見たことがある……)
武器を生成する能力に長けたダルドは、国の宝ともいえる魔導書を持ち出すことを許されている。
とても深い歴史のあるそれらには見たこともない武器やどこで見聞きしたかもわからない種類の武器についてまでが幅広く記されるかなり貴重なものだ。
「どこに置いたっけ……」
机の上にあるすべての山に目を通し終えたころ、最下部にある大きな引き出しの中へいくつかしまっていることを思い出し手を掛けた。
上質な家具をあてがわれていたために引き出しはスムーズに開いたが、指先に感じた重みから想定されるのは辞典ほどの厚みがあるものなのかもしれない。薄っすらと残る記憶と合致して期待に胸を膨らませるダルド。
やがて姿を見せたそれは数百年もの長き間、誰の目にも触れることのなかったであろうその中に求めていたものはあった。
古びた布張りの紺色の表紙にはもはや色褪せて読めない文字が連なっていたが、研究熱心なガーラントが保管する場所を内容ごとにまとめていたため、ダルドはそのあたりの書物をまるごと持ち出していたのである。
長き年月と人の手を要し、両手に収まりきらないほどの厚みを書き上げた情熱にダルドはいつも感服させられる。
『彼らの知識を使わせてもらっているだけの僕は……到底彼らの足元に及ばない』
そう言うダルドに<大魔導師>ガーラントは首を横に振って答えた。
『先人の知恵も使える者が現れてこそ生きるというものですじゃ。
ダルド殿が残した記述も、やがて後世に語り継がれますぞ!』
『僕はまだそんなに大きな発見をしたわけじゃないよ』
『ふぉっふぉ、まだ一度も生成されたことのない魔導書のページがいくつもありましょう?
それは使い手が未だに現れていないことを意味しておりますのじゃ。そこが埋まったとき、どんな武器が誰の為に創られたか……その魔導書の中で物語は始まりを迎えるのです』
『……キュリオの神剣のこともここに載ってる?』
素朴な疑問だった。神に与えらえたというキュリオの神剣がどのように誕生したか……武器を生成する術者としてダルドは興味があるのだ。
だが、自分にとって目に見えない神の存在などどうでもよかった。
自分を救ってくれた彼こそが唯一無二の存在であり、神だと言っても過言ではないからだ。
『……うむ。歴代の王たちの神剣についてはかなり詳しく書かれております。王の御名とともに神剣の姿かたちが描かれていたはずじゃ』
彼に開くことができない書物もいくつかある中で、開けるものはすべて熟知しているガーラントだからこそ答えることができる内容だった。
そしてガーラントが歴代の王たちに興味が湧かないはずがない。王に次ぐ実力者として<大魔導師>は崇高な存在として崇められているが、実際は王の影に隠れてしまうほどにその力の差は歴然としている。人間を超越した存在……それほどに王とは手の届かない特別な人物なのである。
『そうなんだ』
『面白いものじゃよ! 侍女らが記録した物もあとでみてみますかの?
昼に寝て、夜に執務をされる王もおったそうで日が昇っている間に騒がしくすると怒られたと……夜型の王の話がなかなかに面白いのですじゃ!』
ダルドやガーラントが基準とする王はやはりキュリオだ。
キュリオを中心として城に仕える従者たちは動く。だからこそ彼から遠い性格の人物であればあるほど違和感というものが付きまとうため夜型の王の話を目にしたガーラントが面白く思えるのもわかる気がする。
『僕はキュリオの前の王様のことが気になる。凄い人だったってキュリオが言うから……』
ダルドが敬愛してやまないキュリオがそこまでいう人物をダルドはどうしても気になるのだ。
『ふむ。セシエル様じゃな……』
急に歯切れの悪くなったガーラント。
なにか思うところがあるのだろうか? しかし、この悠久で彼を知るのはもはやキュリオだけのはずだ。
『どうかした?』
調子が変わった大魔導師にダルドは手にした書物を置いて問う。
するとわずかな沈黙が流れて……
『うむ……セシエル王はちと謎の多い御方なのですじゃ。
儂も詳しくわかりませんが、彼の最後を見た者がおらんのです。
……まだ御存命であるという可能性もゼロではなく……』
ガーラントも口にしながら予測の域を出ていないようだった。
しかしそんなことが可能なのだろうか? だが、当時第一位だったという偉大なセシエル王がどれほどの力を秘めていたか……それさえも謎なのである。
『……キュリオが王になってから五百年以上も経ってるのに生きていられるの?』
『セシエル様は千年王になり得た御方だったとキュリオ様はおっしゃっておりましたのじゃ』
『まだ力が残ってる?』
『うーむ……なんとも言えませぬが、恐らく目的あって王座を渡された可能性をキュリオ様は示唆されていたことがありましたが、キュリオ様の御記憶にところどころムラがおありのようなのです』
『セシエル様の言ってたことは一字一句覚えてるってキュリオは言ってたけど……違うの?』
キュリオが模範とするセシエル王。
彼の教えることすべてを吸収しようとした当時のキュリオは神童とも言われていたため、本当に一字一句覚えていてもなんら不思議はない。
『……セシエル様は時間の横の軸を操れたと聞いたことがあります故、もしかしたらキュリオ様の時間軸にセシエル様が関わっているのではないかと……恐れながら儂は推測しております。
時間軸を操る……想像もつかないとてつもない御力じゃ』