【第二章】狂気の王と永遠の愛(接吻)を
アオイはガラス越しに触れることのできない青年を見上げる。月の光に照らされた彼は不思議そうにこちらを見つめながらも優しく笑いかけてくれた。
『お前がもう少しでかくなったらどこへでも連れ出してやる』
言葉を聞いて嬉しそうに頷くアオイの思いは時折会いに来てくれる恩人の訪問を心から喜んでいるものであり、そこに国同士に大きな溝があることをまだ理解していないが故の純粋なものであった。
キュリオの目を盗んで現れるこの青年との逢瀬はこれから先順調に続き……キュリオの知るところとなるのはもっと後のことであった。
思い出したように部屋を見渡したアオイが小走りに向かった先はベッドの横にあるサイドテーブルだった。
青年はアオイの姿を目で追うだけでは飽き足らず、窓に沿って歩いて小さな姿を探す。
やがて戻ってきたアオイの手には、丁寧に作られたぬいぐるみがあった。
「わんわんっ」
青年に見える様、両手でぬいぐるみをガラス戸に近づける。
柔らかそうな素材に赤い瞳の……恐らく狼(ウルフ)だと思われた。
『アオイの友達か? 俺の名はティーダだ。よろしくな』
普段の彼がぬいぐるみに挨拶する姿など誰も考えられなかっただろう。
だが、この娘が会わせてくれた初めての友達なのだ。しゃがんでぬいぐるみと視線を合わせると、アオイを見つめるような優しい瞳で自己紹介する。
「ティー……ダ」
『……っ!』
初めてアオイの唇から紡がれた己の名。
驚きに顔を上げた彼は、これ以上にないくらいの笑顔をアオイへと向けて――
「ようやくお前の口から聞けたな。そうか……もうだいぶしゃべれるようになったんだな」
自然と込み上げる喜びのようなものに、これが父親の心境か? と、ハッとしたティーダ。
それは一度も抱いたことのない感情であり、なんと表現すればよいかわからないが、じんわり広がった感動のようなそれは……なかなか悪くない気がした。
そして、それと同時に沸き上がるキュリオに対しての嫉妬や負の感情が色濃くなっていく。
『……』
「?」
急に口を閉ざした彼をアオイが下から覗き込む。疑うことを知らない純粋で真っ直ぐな瞳。アオイの清らかな魂を映したかのようなまっさらで愛らしいその容姿に、自分などが触れてはならない高潔なもののような気がしてならないティーダは――
『お前がアイツに見つけられた理由……いまなら何となくわかるぜ』
あまりに違い過ぎる自分とアオイの魂。人の生き血を糧とする彼らはアオイにとって害でしかないのだ。
それに対し、人を守り癒しの力を持つ悠久の王は紛れもなくアオイを庇護する者としてふさわしい。
あらゆるものに陰と陽が存在するように、この世界にも存在している。陰に生まれたものは陽の者と相容れず、陽もまた陰に生まれた者とは相容れることはできないのだ。だが、それすらも偏見なく接する者がいたとしたら、世界に変化は訪れるのだろうか――?
「……?」
ガラス越しの彼の声はあまりに小さすぎてアオイの耳には届かない。しかし、唇は動いていたことからアオイは「なんと言ったの?」とばかりに小首を傾げている。
『可愛いな、お前って言ったんだよ』
見るからに柔らかそうな髪に透きとおるような白い肌。疑うことを知らない純粋な丸い瞳にティーダは釘付けになる。
まだまだ幼いアオイの体は丸みを帯びているが、いつの日かの彼女よりもほっそりとしたその身体は着実に少女への階段を上がっているように見えた。
『お前がもう少しでかくなったらどこへでも連れ出してやる』
言葉を聞いて嬉しそうに頷くアオイの思いは時折会いに来てくれる恩人の訪問を心から喜んでいるものであり、そこに国同士に大きな溝があることをまだ理解していないが故の純粋なものであった。
キュリオの目を盗んで現れるこの青年との逢瀬はこれから先順調に続き……キュリオの知るところとなるのはもっと後のことであった。
思い出したように部屋を見渡したアオイが小走りに向かった先はベッドの横にあるサイドテーブルだった。
青年はアオイの姿を目で追うだけでは飽き足らず、窓に沿って歩いて小さな姿を探す。
やがて戻ってきたアオイの手には、丁寧に作られたぬいぐるみがあった。
「わんわんっ」
青年に見える様、両手でぬいぐるみをガラス戸に近づける。
柔らかそうな素材に赤い瞳の……恐らく狼(ウルフ)だと思われた。
『アオイの友達か? 俺の名はティーダだ。よろしくな』
普段の彼がぬいぐるみに挨拶する姿など誰も考えられなかっただろう。
だが、この娘が会わせてくれた初めての友達なのだ。しゃがんでぬいぐるみと視線を合わせると、アオイを見つめるような優しい瞳で自己紹介する。
「ティー……ダ」
『……っ!』
初めてアオイの唇から紡がれた己の名。
驚きに顔を上げた彼は、これ以上にないくらいの笑顔をアオイへと向けて――
「ようやくお前の口から聞けたな。そうか……もうだいぶしゃべれるようになったんだな」
自然と込み上げる喜びのようなものに、これが父親の心境か? と、ハッとしたティーダ。
それは一度も抱いたことのない感情であり、なんと表現すればよいかわからないが、じんわり広がった感動のようなそれは……なかなか悪くない気がした。
そして、それと同時に沸き上がるキュリオに対しての嫉妬や負の感情が色濃くなっていく。
『……』
「?」
急に口を閉ざした彼をアオイが下から覗き込む。疑うことを知らない純粋で真っ直ぐな瞳。アオイの清らかな魂を映したかのようなまっさらで愛らしいその容姿に、自分などが触れてはならない高潔なもののような気がしてならないティーダは――
『お前がアイツに見つけられた理由……いまなら何となくわかるぜ』
あまりに違い過ぎる自分とアオイの魂。人の生き血を糧とする彼らはアオイにとって害でしかないのだ。
それに対し、人を守り癒しの力を持つ悠久の王は紛れもなくアオイを庇護する者としてふさわしい。
あらゆるものに陰と陽が存在するように、この世界にも存在している。陰に生まれたものは陽の者と相容れず、陽もまた陰に生まれた者とは相容れることはできないのだ。だが、それすらも偏見なく接する者がいたとしたら、世界に変化は訪れるのだろうか――?
「……?」
ガラス越しの彼の声はあまりに小さすぎてアオイの耳には届かない。しかし、唇は動いていたことからアオイは「なんと言ったの?」とばかりに小首を傾げている。
『可愛いな、お前って言ったんだよ』
見るからに柔らかそうな髪に透きとおるような白い肌。疑うことを知らない純粋な丸い瞳にティーダは釘付けになる。
まだまだ幼いアオイの体は丸みを帯びているが、いつの日かの彼女よりもほっそりとしたその身体は着実に少女への階段を上がっているように見えた。