アンフィニッシュト・ブルー(旧題 後宮)
一旦は閉めたはずの航空機のハッチがカガン人の男たちの手によって再び大きく開かれ、強い風が私を機内に押し戻すように吹き込んだ。
すごい風だ。
私はためらいを振り切るために一瞬強く目を閉じてから一気にタラップを駆け下りた。
ほとんど転がり落ちるようにしてタラップを駆け下りた私を、待機していた井出さんが受け止めた。
振り返って見上げると、ハッチ付近に立っていた軍服姿のカガン人が一気にハッチを閉めた。イリアスさんはハッチが閉まる直前、私に向かって目礼していた。
「大丈夫ですか……、寒いですよね、これを着てください」
コートを機内においてきてしまった。
セーターとウールのスカート姿で、何も羽織るものをもっていない私を気遣って、井出さんが私の肩にジャンパーを着せかけてくれた。
バッグもミハイルが荷物入れに片付けてしまった。
荷物を片付ける際にイリアスさんが私のバッグを預かって返してくれるはずだったが、ミハイルが予想外の行動に出たためにそれがかなわなかったのだ。
「大丈夫、です」
私は何度も頷いた。
「車を待たせています。少し歩けますか」
「はい」
井出さんは私を庇うように私の肩に手をかけ、私を促した。
航空機がエンジンから吐き出す轟音と強い風で目を開けていられない。
その時、私は背中に何かを感じた。振り返ってはいけない、それがわかっていたのに私は躊躇(ちゅうちょ)する暇もなく、ほとんど反射的に振り返った。
見上げた航空機の窓にミハイルの横顔が見えた。
彼も何かを感じたのだろうか。ゆっくりとこちらを向き、そして私と目があうとその美しい瞳を大きく見開いた。