アンフィニッシュト・ブルー(旧題 後宮)

リポーターがあらかじめ取材しておいた映像が流れ始めた。

日本は例年になく雪の多い都市となったが、さすがに三月も中旬を過ぎると寒さも緩んできたのに対し、カガンはまだまだ真冬そのもののようで、映りこむ道路や王宮前の広場などには雪が積もっていた。

それほどに寒いのにカガンの人々はミハイルの即位のお祝いのために王宮前に詰め掛け、王宮前広場では時折花火が上がっていた。

カガンの首都、イティルの人々はおおむねミハイルの即位を歓迎しているようだった。
これだけの人々が王室を支持しているのに、なぜ、あれほど大きなクーデターが起こってしまったのだろうか。とても不思議だった。

「加賀リポーター、即位式の様子はどうでしたか?」

「はい、報道規制が敷かれましたが、日本、イギリスなどミハイル殿下とかかわりの深い国の一部のメディアは王宮内の撮影を許されました。その様子がこちらです」


画面が突然切り替わり、白っぽい大理石を敷き詰めた大きな広間にロイヤルブルーの軍服を着た男たちがずらりと並んでいた。
広間の奥には閣僚だろうか、肩から白い綬(じゅ)を垂らし、勲章をつけた正装の男たち。
式典に出席している男性の数は多かったが、女性の姿は少ない。
男たちから少し離れた場所に女性の席がつくってあり、そこには数人の女性が居た。彼女らは肌の出ないドレスを着て、皆一様に華やかな刺繍を施した長い布で髪を隠している。髪を隠しているので彼女らの年齢はわかりにくいが、おそらく50代以上だろう。若い女性の姿はない。

私はそれを見てカガンの女性はあまり公の場には出ないといったミハイルの言葉を思い出した。


画面下部のテロップにカガンの歴史や習慣、王家の歴史を説明した文章が表示された。そのどれもが私の知らないことばかりだ。

私はカガンのことはほとんど知らないまま、その国の王子を好きになってしまった。自分の周りの変化に戸惑いながらも、私はその恋に流されていた。何を学ぼうともせずに……。

そんな私をイリアスさんや井出さんが心配してくれたのは彼らの立場なりのあたたかさだったのだろうと思う。私は初めて恋を知った少女のように、周りが見えていなかった。
< 268 / 298 >

この作品をシェア

pagetop