デジタルな君にアナログな刻を
午前10時 開店
わたしは、腕時計のデジタル表示を凝視していた。

女性が着けるにはちょっと厳ついデザインが物語るように、少々の衝撃にも耐える丈夫さ。加えて20気圧防水なので雨の日や水辺でも安心です。その上ソーラー充電だから、半永久的に使えて経済的。
愛用の時計が、送信局から受信する標準電波によって、正確な時刻を告げてくれる。

ただいま午前9時59分50秒。あと10秒。9、8……、3、2、1!

ガラガラと勢いよくシャッターを開けた。
午前10時ジャスト。『薗部(そのべ)時計店』の開店である。

駅前ロータリーのど真ん中に建つ電光掲示の時計も同じ時を示し、大音量で音楽を鳴らし始めた。曲はかの有名な壊れちゃった時計の歌。ちょっとセンチメンタルな歌詞とは裏腹に、明るい音階で奏でられるそれは、毎日10時と17時の2回鳴らされていた。

ここ数年ですっかり様相の変わってしまった駅前だけど、この曲だけは開発事業が始まる前から変わらない。あ、微妙にズレていた音階が直っているかも。

思わず聴き入ってしまって、30秒くらいのタイムロス。
晩秋の風が容赦なく吹き込む自動ドアのスイッチを、持っていたシャッターを上げ下げするための棒の先でONにしてドアから離れると、機械音を立てながらゆっくりと閉まる。途端に冷たい風も遮られた。
2年くらい前に建てられたばかりのビルのテナントなのに、手動が多い店だ。

変なところでレトロ感を出さなくてもいいのに。
毎日のことなのに、いや、毎日のことだからこそ、そう思ってしまうのかもしれない。

昭和レトロを象徴する壁に掛けられた古い振り子時計を親の敵のように眺めていると、ふわぁ~と一気に脱力を覚える欠伸が聞こえてきた。


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