デジタルな君にアナログな刻を
午前0時 告白
降りたフロアには二戸分の玄関ポーチしかない。郵便受けの数やビルの規模からいっても少ないように思うのだけれど。

「あっちは両親が戻ってきた時に使ってる部屋。僕のはこっちだから」

しんとした廊下を歩き、店長が玄関ドア脇のボタンを押すとロックが解除される音が小さくした。エレベーターといい玄関といい、最新マンションの設備には驚くことしかできない。いまだに『ピッキングにご用心』なんて回覧板が回ってくる市営団地とは大違いだ。

広い玄関はバリアフリーになっていて、辛うじて玄関マットが境目を教えてくれている。脇にあった扉の中に消えた店長は、スリッパを手に戻ってきた。

「ごめんね。普段、自分は使わないから」

大理石っぽい床とは不釣り合いなくらい質素なスリッパを並べ、自分は無造作に革靴を脱ぐと靴下のまま奥へと進んでしまう。

「お、お邪魔します」

脱いだジャケットを小脇に抱え、ふたりの靴を揃えて店長の後を追った。ゆったりした幅の廊下の左右にあるいくつかのドアを通り過ぎ、正面の一際大きなドアの向こうに現れたは広いリビングダイニング。
白い床に黒い皮のソファーセット。そこに座るように示された。

ペタペタと靴下の足が奥の扉に消えていく。言われたソファーの右端に腰掛けると、ぐんと身体が座面に沈んで焦った。意味もなく背筋を伸ばす。

再びペタペタと店長が戻り、持ってきたふわふわの毛布を広げると、なぜかそれでわたしをおにぎりの海苔のように包む。続いて延長コードで引っ張られた小さな電気ヒーターが足元に置かれて、スイッチが入れられる。

「店長?なんですか、これ」

「こんなことなら、もっと早くエアコンを入れておくんだった。今、床暖も点けたから、もう少しそのまま暖まってて」

炙られたおにぎり状態のわたしを置き去りにして、対面キッチンの向こうでがさがさと作業を始めてしまう。

真っ白い天井には埋め込み型のエアコン。そういえば、ネットで外出先からでも入切ができるって聞いたことがある。だから、殺風景な広いリビングでも寒々しさを感じなかったのか。

あらためて不躾にも室内を見回すと、マンションのモデルルームみたいで生活感に乏しい。唯一装飾品といえそうなものは、壁にかけられたグレーの丸枠に長針と短針だけの時計のみ。白い無地の文字盤では、本当に正しい時刻を表しているのかと心配になるけど、それが店長らしいとも思えた。

ゴチャゴチャした充の部屋とは比べものにならない。このリビングダイニングとキッチンだけで、団地の我が家が全部入ってしまいそう。

床暖房って言ってたな。片足をスリッパから抜き、恐る恐る足の裏を床に置いてみた。岩盤浴ってこんな感じ?冷たい石の感覚を覚悟していたのに、じわっとしたと暖かさが伝わってくる。

「なにしてるの」

声と共にマグカップが現れる。手渡されたその中身は、湯気を立てるミルクだった。

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