デジタルな君にアナログな刻を
「それより、店長!その、プ、プロ……ってどういうことですか」

「プロポーズ。したでしょう?やっぱり伝わってなかったんだ。『就職』という点では間違ってないかったけど」

あの時一瞬誤解しかけたけれど、そっちが本当の意味だなんて思えるわけがないじゃない。

「だって、ほぼ初対面だったんですよ?」

「知り合ってすぐに、結婚を申し込んじゃいけない決まりはないでしょ」

「けっ……こん……」

正直にいえば、バッチリしてました。妄想。もし遠い将来、そんな話が出たらどうしようなんて、告白する前から、気の早すぎる想像をして悩むくらいに。
だけどどうして。当たり前のように浮かぶ疑問を、視線に込めて訴えた。それを受け、店長はソファーから静かに立つ。

「円ちゃん、ちょっとこっちにおいで」

ふわりとした笑みを添えて差し出された右手に、自分の右手を乗せると柔らかく握られる。誘われて立ち上がったわたしの跡に、丸まった毛布がセミの抜け殻みたいに残された。

一旦廊下に出てすぐ左側のドアを開ける。そこは、窓のない小さな……といっても、八畳くらいはありそうな部屋だった。
エアコンで温度と湿度が一定にいる保たれているのか、ほかの部屋よりひやりとする。その室内の壁の一面には、ガラスの扉がついた棚が造り付けられていて、背面は鏡になっていた。

そこに整然と並べられているのは、全部時計。腕時計はもちろん、懐中時計に置き時計。果ては砂時計まで飾られていた。そして反対の壁には、様々な大きさの掛け時計たち。その真ん中に鎮座する、子ヤギが飛び出してきそうなホールクロックには、一段と存在感があった。

「すごい……」

その一言。動いてるものは数少ないのに、佇まいだけで時の流れを感じさせる。時計って、今の時刻を示すだけじゃない。その時計が歩んできた時代まで教えてくれている。そんな気がした。

「いくつかオヤジが集めたものもあるけど、ほとんど祖父さんの収集品。年代もブランドもばらばらで、価格も様々。ただひとつこだわっていたのは『自分とフィーリングがあうこと』だったそうだよ」

店長はガラス戸をスライドさせ、中からクロノグラフの腕時計を取り出す。比較的新しそうなそれは作動していたらしい。耳に当てうっとり蕩けるように微笑む。

「手にした時の重みとか、刻まれる音とか。そういったものなんだと思う」

お気に入りって、そういうものだよなあ。うんうんと頷いていると、店長が時計たちを見つめる時と同じ、甘い瞳をわたしに向けてきた。


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