デジタルな君にアナログな刻を
「だからね、そういうこと」

「へっ?」

たくさんの入り交じった感情で、すっごく間抜けな声が出てしまう。『だから』はどこにかかる言葉ですか?
店長は照れ臭そうに鼻の頭をポリポリとかいて、その指で襟を摘まんでをぱたぱたさせた。

「……きっともう円ちゃんにはバレていると思うけど。僕はどうも、手先も含めてあまり器用でないというか、要領が悪いらしいんだよね。子どもの頃から」

ここで素直に肯定していいものなのか迷ったけれど、とりあえずスルーしておこう。

「時間の使い方が下手で、それに加えて心配性で。たとえば戸締まりとか火の始末とか、何回も確認したくなる。これでわかる?」

今度は大きく首を縦に振った。身に覚えがありすぎる。

「わたしもです!団地の1階まで降りてから鍵をかけたか不安になって、また4階まで駆け上がるのなんて、しょっちゅう。でも、たいがいそういう時ってしっかりかかってるんですよね」

「そうそう。パソコンで作った表に何度も電卓をいれたり。小学生の時なんて、時間割を揃えてもなにか忘れている気がして、もう一度全部出してから入れ直して。それを繰り返しているうちに時間がなくなって大急ぎで詰め込んで、結局ペンケースを忘れたり」

わたしの共感が得られたことが嬉しかったのか、興奮気味に店長がまくし立てるけど、さすがにそこまで酷くはない。苦笑いでごまかした。
それに気づいた彼は、わざとらしい咳払いをする。

「とにかく。何事にもそんな調子だったから、せっかちなオヤジにいつも「早くしろ」って言われてきてね。家の環境のせいもあっただろうけど、気がつくと時間ばかりを気にするようになってしまっていた」

それってこの前、フードコートで話したわたしと同じ。店長は薄い笑いを浮かべながら話を続ける。

「大人になって多少ましにはなったけど、やっぱり時間の配分が下手で。それこそ三月ウサギみたいに、いつも追われているような気がしていたんだ。そんな時、高校生だった円ちゃんをみかけた」

「……わたしが店長と同じだと思ったんですか?」

ゆっくりと上げられた口角は、正解という意味だろう。

意外だった。ゆったりと、人とは違う時間の流れの中にいるような店長なのに、そんな思いをしていた時期があっただなんて。
< 110 / 142 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop