デジタルな君にアナログな刻を
エントランスに回って、郵便受けからDMやら請求書といった郵便物を取り出す。書留などがある時は、郵便屋さんがお店まで持ってきてくれるんだけど、通常郵便はもっぱらこちらだ。

「宿谷(しゅくや)さん! ちょうどよかった」

同じように出先から帰ってきた立河さんが、集合受け箱に近寄ってくる。

「これ、お茶の時間にでもどうぞ」

手提げ袋に入った紙箱を差し出されれば、条件反射的に受け取ってしまう意地汚い自分。この箱って、市内でもちょっと有名な洋菓子店のだ。

「サツマイモが好きって言ってたから」

「え? でもいいんですか?」

「落ち葉を片付けてもらったお礼。それにいつも、この辺りまで掃除してくれてるし」

それもこれも全部ついで。他に任せてもらえる仕事もないし、掃除くらいしかできないからなのに。戸惑うわたしに、立河さんは「じゃあ」と軽く手を上げてエレベーターに乗り込んでしまう。

「ごちそうさまです。ありがとうございます!」

銀色の扉が閉まる寸前、ようやくそれだけを叫んで伝えられた。

予定通り休憩時間終了5分前には時計店に戻り、いただいたお菓子の箱を2ドアの小さな冷蔵庫に入れてから歯を磨く。ロッカーに付いている鏡を使って、ヌードベージュのリップを塗り身だしなみを整えた。
デニム素材のエプロンは、お腹のところにある二つに分かれた大きなものと小さな左胸のポケットが付いている。胸のところに三色ボールペンを差したら準備完了。腕時計が13時59分を示していた。

事務室から店内に続く扉を開けようとしたけれど、人の話し声が聞こえてきたので手を止める。お客様のお話を邪魔してはいけない。タイミングを計るため、ドアの向こうへ耳をそばだてる。

「じゃあ、お父さんたちによろしくね」

「はい、ありがとうございます。きっと会ったらびっくりしますよ? 父は釣り三昧で、日焼けして真っ黒ですから」

ふふふという老婦人っぽい笑い声の後、自動ドアの開閉音が微かに聞こえた。もう平気かな。

「すみません、遅くなりました」

念のため細く開けた扉の隙間から顔を覗かせ店内を窺うと、自動ドアの前でお見送りをしていたらしい店長が、ゆっくりと頭を上げて振り返った。
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