デジタルな君にアナログな刻を


「で、どうするんだ?これから」

泡が吹き出さないよう慎重にストローを引き抜きながら、立河さんが真面目な顔で聞いてきた。ビシッと着込んだスーツとのアンバランスがなんとも言えない。

「そうですねえ。とりあえず、時計修理技能士の試験でも受けてみようかと。父親に合格しなきゃ、店を手伝わせないって言われてるんで」

実技に若干の不安が残るが、3級くらいならなんとかなるだろう。たぶん……。

「新しく時計店を開くんだっけ?」

「前に祖父がやってたんですけど、一度閉めてて。父はメーカー勤めを定年退職したら、趣味と実用を兼ねて好き
なようにできるって張り切ってますよ」

できるだけ以前の店の雰囲気を残そうと、新店舗の内装を毎日のように悩んでいる姿は、息子から見ても楽しそうだ。

「なんで普通に継がなかったわけ?オヤジさんも薗部も」

「寂れた商店街の一角にある小売りの古い時計屋でしたからね。でも僕は継ぐ気満々だったんですよ、一応」

じゃあなぜ?と、ストローをくわえたまま無言で聞いてくる。

「『お前には無理だ』って言われたんです。祖父さんにもオヤジにも」

まだ熱いコーヒーを一口啜り、ため息をついた。

「立河さんは『キズミ』って分かります?こう、片方の目に着ける……」

軽く握った右手を右目につけ、できた穴から彼を覗く。

「装着型のちっこいカメラレンズみたいなヤツか?」

ちゃんとイメージが伝わったらしい。片方の瞼に挟んで細かい部品や傷を見るために使う道具のことだ。

「そうです、それ。僕、あれがうまく着けられないんですよね。針金でホルダーとか自作して使う人もいるんですけど。その以前に、長時間使っていると気持ち悪くなっちゃって」

いってみれば、度の合わない眼鏡をかけている感じなのかな?オヤジたちは慣れだって簡単に言うけれど、初めて使った時からいろいろ試して約二十年経った今でも無理。
据え置き型のルーペもあるけれど、こちらは時計との距離感をとるのが難しい。

そんなこんな諸々の理由があって、時計師を仕事にするのは無理だと言われたのだ。

「へえ。でも、時計屋から税理士なんてずいぶん畑違いじゃないか?」

「それは、ちょうど進路を悩んでいた時に、祖父さんの相続で大変な思いをしたからで……」

数字に弱い父とお金に厳しい母が、ゆっくり祖父の死を悼んでいる暇もないくらいに振り回されていた状況を目の当たりにして、自分の時はもっと効率的にやれるようにと選んだ道だった。

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