デジタルな君にアナログな刻を
たしかに駅は、今回の改築によって大幅に変更されている。前は改札を出るとすぐに外に出られたけれど、現在の出口は西口と東口との2カ所に増えた。おばあさんが浦島太郎状態になるのも無理はない。

松山台行きはどっち側だったかな? 通路で左右に首を動かす。うん、きっと東だ。乗り場までは、使わない路線だから申し訳ないけれど知らない。行けば表示が出ているはずだからわかると思う、たぶん。

「こっちをこのまま行くと東口のロータリーに出ます。そこからバスが出ているはずですよ」

わたしが指さした方向へ一緒に顔を向けたおばあさんは、小さくうんうんと何度も頷いてから綺麗なお辞儀をした。

「ありがとうございました。お急ぎのところ、足を停めさせてしまってごめんなさいね」

「いいえ、お気を付けて」

彼女に別れを告げて改札に向かおうとした。だけどなんとなく気になって、人の波を避けながら歩くおばあさんの背中を目で追う。
足取りはしっかりしているけれど、両手に重そうな荷物。その上和服だから足下は当然草履だ。細かい歩幅でちょこちょこと上品に進む姿に、わたしはもう一度時間を確認した。
あと40分はある。そう思ったら、自然におばあさんの所まで駆け寄っていた。

「バス停まで、荷物をお持ちします」

突然軽くなった手にびっくりしたおばあさんは、わたしの顔を見て更に驚く。

「あらでも、あなたもお忙しいでしょう?」

「予定の時間までまだ余裕があるので平気です」

「そうなの? ありがとう、助かります」

今は県外に住んでいるが元はこの辺り出身だそうで、ずしりと重い紙袋の中身は、久しぶりに訪ねる小学校の同級生へのお土産なのだと、歩きながらに話してくれた。

目的のバス乗り場はロータリーの端にあった。すでに出発待ちをしていたバスにおばあさんが乗り込むのを確認すると、わたしは大急ぎで改札へ戻る。別れ際にもらった芋ようかんの包みが、バッグの中で嬉しいけれど地味に重い。

自動改札をダッシュで抜け階段を駆け下りると、ちょうど電車がホームに入ってきたところだった。

『情けは人のためならず』とはこういうことなのかもしれない。到着した電車に乗ってから、時計に目を落とす。あと20分。ギリギリだけど、駅から走れば間に合うだろう。わたしは、降りた後に備えて息を整えた。
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