デジタルな君にアナログな刻を
雨は強くないけれど、梅雨の走りみたいにしとしとと降り続いている。

駅前のバス停に着くと、たった今出てしまったところだった。次は間が悪いことに20分後。けっこうあるなあ。どこかで時間を潰すか、いっそのこと歩いて帰ろうか。そうだ、そうしよう!バス代も浮く。

だけどロータリーに沿って歩き始めたわたしは、すぐに足を止めることになる。新しく建てられた複合ビルのショーウィンドウに飾られていた、からくり時計が目に入ったからだ。

ちょうど午後3時。ログハウス風の小屋の扉が大きく開き、中からピンクのチューリップ型の蕾が前に出てきたかと思うと、ぱあっと花びらを開かせる。その中心にドレスの裾をつまんで立つ女の子のお人形が、花の中心でくるくると回転を始めた。

音楽に合わせて踊っているのだと思うけれど、音は外まで聞こえてこない。なんの曲だろう。ガラスにくっつけるように耳を澄ましていると、傾けて差した傘に低音の声が降ってきた。

「なにかお探しですか?」

「え?」

驚いて傘ごと振り返ると弾かれた雫が飛んで、声の主にかかってしまう。

「あ、すみません!」

「いえ、驚かせてしまってこちらこそすみません。大丈夫ですよ」

雨粒が数滴ついてしまった長めの前髪を片手でかき上げると、ちょっと眠そうに見える目が現れた。

「よろしければ、中でゆっくり見ていきませんか。あの時計」

ということは、このお店の人なのだろうか。軒下に掲げられている、コンクリート打ちっ放し風のオシャレな外観とはミスマッチな年季の入った木の看板には『薗部時計店』と書いてあった。

この店名なら知っている。駅前がこんなに整備されるずっと前からあった時計屋さんだ。木造の古い建物の横に大きな柿の木があったのも覚えている。開発事業で店舗が取り壊され、てっきり辞めてしまったのだと思っていたけれど、このビルのテナントに入ったらしい。

でも、と声をかけてきた男の人を見上げる。わたしが知っている時計屋さんは、白髪交じりの髪を後ろになで付け、いつも眉間に深いシワが寄っていたおじさん、というよりおじいさんだった。
決してこんな鼻筋が通ったシャープな顎の整った顔立ちなのに、目尻を柔らかく下げる青年ではない。

わたしの顔にはよっぽど不審感が現れていたらしく、彼の眉が困ったように八の字を描く。

「別に売りつけたりしないよ、安心して。なんだかとっても興味があるみたいだったから、つい声をかけてしまったのだけれど……。迷惑だったかな?」

くたりとしょぼくれた表情と一緒に、口調もだんだん砕けたものになる。
あれ、この人いったい何歳なんだろう? わたしより年上なのは間違いなさそうだけれど、ふわふわとした雰囲気が妙に頼りない。もしここで断ったりしたら泣いてしまう、なんてことはさすがにないよね?

ふと見ると、彼のベストの肩に軒から垂れてくる雫のシミができていた。それに曲も気になる。

「じゃあ、お言葉に甘えてちょっとだけ」

怖ず怖ずと申し出ると、唇の両端がにっこりとに上がり、奥二重の両目はくっついてしまったかと思うほど嬉しそうに細くなった。
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