デジタルな君にアナログな刻を
店内のソファを薦められ、そこに腰を下ろすと、固めのスプリングがギシッと音を立てた。
「はい、どうぞ」
あのからくり時計が、目の前のローテーブルに静かに置かれる。もちろんチューリップは小屋の中に引っ込んでいて、今はただのおもちゃみたいな置き時計。
まさか4時になるまで待ってろ、ということではないよね?
売り物を気安く触っていいものかと躊躇うわたしに、彼はまったく関係のない質問をしてきた。
「コーヒーと紅茶と緑茶、どれが好き?」
ごちそうしてくれるというつもりなのかな。だけど、わたしは店のお客さんでははない。
「いえ、お構いなく」
「3時だし、ちょうど飲もうと思ってたんだ。一緒にどう?」
「いえ、本当に……」
「じゃあ、コーヒーにする。それ、テキトーにいじくってみて。デモ機能があるはずだから」
わたしの遠慮を思いっきり無視して、店奥の扉の向こうへ消えてしまう。わたしがお店の商品やレジのお金を盗むとか、思わないんだろうか。もちろん、そんなことはしないけれど。
ひとり残されてしまったので、本来の目的である時計を手に取った。見た目のプラスチック感に比べてけっこう重い。電池のせいかな。
時計の裏側を調べると、時刻を合わせるためのツマミの横に小さな黒いスイッチがある。たぶんこれだ。
頼りない突起をパチンと動かしてみれば、時計の内側から微かな作動音がしたので、慌ててテーブルに戻す。
するとさっきと同じように中から蕾が出てきて、オルゴールっぽい電子音が鳴り始めた。
あ、知っている曲だ。
肝心の曲名はど忘れしていたけれど、耳慣れた曲に自然と鼻歌を口ずさむ。
くるくると回っているのは、おやゆび姫なのかな?そう考えれば、小屋の屋根にはツバメが止まっているし、フラれてしまうカエルやモグラ?らしきフィギュアも控えめにくっついている。その割には王子様は見当たらなかった。
30秒ほどの演奏が終わって蕾が小屋に帰っていく。途端に店内がしん、と静けさに包まれた。
時計店なのだから当然のことだけど、こんなにたくさんの時計の文字盤に囲まれていると、時間に追われている気分になって息苦しい。特に秒針の動きは、わたしの脈まで速くする。
チッチッチッチっと刻まれる音が耳元で聞こえた気がして、思わず手で両耳を塞ぐ。ぎゅっと目を瞑ってしまえば、さらなる静寂に安心させられた。
「はい、どうぞ」
あのからくり時計が、目の前のローテーブルに静かに置かれる。もちろんチューリップは小屋の中に引っ込んでいて、今はただのおもちゃみたいな置き時計。
まさか4時になるまで待ってろ、ということではないよね?
売り物を気安く触っていいものかと躊躇うわたしに、彼はまったく関係のない質問をしてきた。
「コーヒーと紅茶と緑茶、どれが好き?」
ごちそうしてくれるというつもりなのかな。だけど、わたしは店のお客さんでははない。
「いえ、お構いなく」
「3時だし、ちょうど飲もうと思ってたんだ。一緒にどう?」
「いえ、本当に……」
「じゃあ、コーヒーにする。それ、テキトーにいじくってみて。デモ機能があるはずだから」
わたしの遠慮を思いっきり無視して、店奥の扉の向こうへ消えてしまう。わたしがお店の商品やレジのお金を盗むとか、思わないんだろうか。もちろん、そんなことはしないけれど。
ひとり残されてしまったので、本来の目的である時計を手に取った。見た目のプラスチック感に比べてけっこう重い。電池のせいかな。
時計の裏側を調べると、時刻を合わせるためのツマミの横に小さな黒いスイッチがある。たぶんこれだ。
頼りない突起をパチンと動かしてみれば、時計の内側から微かな作動音がしたので、慌ててテーブルに戻す。
するとさっきと同じように中から蕾が出てきて、オルゴールっぽい電子音が鳴り始めた。
あ、知っている曲だ。
肝心の曲名はど忘れしていたけれど、耳慣れた曲に自然と鼻歌を口ずさむ。
くるくると回っているのは、おやゆび姫なのかな?そう考えれば、小屋の屋根にはツバメが止まっているし、フラれてしまうカエルやモグラ?らしきフィギュアも控えめにくっついている。その割には王子様は見当たらなかった。
30秒ほどの演奏が終わって蕾が小屋に帰っていく。途端に店内がしん、と静けさに包まれた。
時計店なのだから当然のことだけど、こんなにたくさんの時計の文字盤に囲まれていると、時間に追われている気分になって息苦しい。特に秒針の動きは、わたしの脈まで速くする。
チッチッチッチっと刻まれる音が耳元で聞こえた気がして、思わず手で両耳を塞ぐ。ぎゅっと目を瞑ってしまえば、さらなる静寂に安心させられた。