デジタルな君にアナログな刻を
カウンター代わりのショーケースの向こう側。壁際に備えつけられた机が作業台のようだ。明かりを点け、あちこちの引き出しを開け閉めしている。
時々「あれ?」とか「おわっ!」とか聞こえてくるのがちょっと不安だけど、机上の様子まではソファがある位置からは窺えない。

ちょっと渋めのお茶に顔をしかめていると、やがてその声が聞こえなくなった。湯飲みから視線を移動してしてみれば、手元に真剣な眼差しを向ける彼の横顔が見える。
前髪でよくは確認できないが、たぶんその眉間にはお祖父さんと同じように深いシワができているに違いない。

ほんの僅かにする金属が触れ合う音。それを消してはいけない気がして、無意識に呼吸の数を減らしている自分がいた。

手の中の湯飲みのお茶がすっかり冷めた頃、コトリと音がして彼が大きく息を吐き出したのがわかる。途端に、無音の空間にいたようなわたしの意識にも音が流れ始めた。

耳を塞いでいたわけではないのに、今は秒針の音が聞こえなかったな。
そんなことを思い出したのは、眉間を指で揉みほぐしながら、彼がカウンターの中から出てきた時だった。

「大変お待たせしました。これで大丈夫なはずです」

天鵞絨張りのトレイに乗せられて戻ってきた腕時計は、何割増しかで高そうに見える。店内にある他の時計と同じ時刻を表示している文字盤を覆うガラスの輝きが、心なしか違うように感じ、目を擦って確かめてしまった。

「ありがとうございます」

せっかく正確な時を刻むようになった時計だけれど、昨日のことが脳裏に蘇り再び腕につける気持ちにはなれず、ハンカチにくるんでバッグにしまう。
代わりにお財布を取り出した。千円札と百円玉を一枚ずつ、テーブルの上に重ねて置く。

「こちらこそ、ありがとうございました」

代金を受け取りレジからお釣りとレシートを取ってくると、彼はそれらをわたしの掌に乗せる。添えられた手がとても大きく見えて、これで小さな部品を扱うのは大変だなとぼんやり思っていた。
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