デジタルな君にアナログな刻を


湯飲みいっぱいに注がれたお茶は、煎茶のはずが濃い抹茶色。コーヒーは美味しく淹れられるのに、どうしてなのか日本茶は苦手らしい。

「今日のおやつは、立河さんからいただいた洋菓子ですよ?」

冷蔵庫から持ってきた紙箱を開けると、中身はシュークリームだった。ひとつずつお皿に乗せると、中にあとふたつ残る。とりあえずまた、冷蔵庫へ戻しておこう。

最初のうちは、仕事中に店内でお茶休憩なんてどう考えてもおかしい、と主張してみたのだけれど、改善されることのないまま時は過ぎ。今ではすっかりこの状況に慣れてしまった自分が、ちょっと怖い。

たまにご近所のお馴染みさんがやってきて、3人、4人でのんびりお茶することもしばしば。表を忙しなく通る車や人と打って変わって、ここを流れる時間は早さが違うようにも思えてくる。

「いただきます」

サクサクのシュー生地といっぱいに詰められたクリームを零さないように食べるのが難しい。大きな口を開けてかぶりつくと、いつもと味が違うと気づいた。
二層になったクリームのうち、甘さ控えめの生クリームは変わらないけれど、もう一方が滑らかなカスタードじゃない。ちょっとだけ舌触りがざらりとして、たまに甘い粒にあたる。

これ、サツマイモだ!囓った断面をまじまじと見ると、真っ白いクリームの下に黄金色のサツマイモペーストが確認できた。ということは、粒は刻んだお芋だろう。
立河さん、きっとわたしが芋好きだと聞いて買ってきてくれたんだ。素敵すぎる大人の気遣い。

洋菓子だけどどこか和を感じるシュークリームに大満足して淹れてもらったお茶を含むと、不思議に渋みがよく合った。

「思い出した!」

突拍子もなく声を上げた私の声に店長が驚いたように反応し、慌てた様子で一口には少し大きめのシュークリームを無理矢理口に全部入れ、指先についたクリームをぺろりとなめ取る。

「いったい、なにを思い出したって?」

口の中の甘みをお茶で流してから、その一部始終を見守ってしまっていたわたしに訊いてきた。

「え?ああ、わたしの初任給の使い道です」

「なんだ、そんなこと。それでしょ?」

店長の視線はわたしの左手首に注がれていた。
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