デジタルな君にアナログな刻を
「はい。これです」
15時26分。標準時の電波を受け現在の時刻を正確に表示する時計の縁を、右手の指先で軽く弾く。薗部時計店で働き始めて最初にもらったお給料で買ったのは、このデジタル式の腕時計だった。
他にも、母と弟に心配をかけたお詫びと日頃の感謝を込めて、ホールケーキも買って帰ったけれど。
「もっと可愛いのにすれば?って言ったのに」
「店長が薦めてくれたのは、どれもアナログだったじゃないですか」
遅刻した面接の日以来、あの腕時計を着けることができなくなったわたしは、時計屋の店員であるという自覚を持つために時計を新調することにしたのだ。
それを告げると、彼がショーケースから出してきたのは、ベルトがブレスレットタイプのものやダイヤルカラーがピンクのものなど、どちらかというとオシャレ重視なアナログ時計ばかり。
中には文字盤に数字がないものまであって、速攻で却下させてもらった。
あまり種類を置いていないデジタル時計の中からわたしがこれを選んだ時も、彼は不服そうに口をへの字に曲げていたっけ。
「どうしてアナログばっかり置いているんですか?デジタルの方が、キッチリとした時間がわかるのに」
店内の商品は圧倒的にアナログ時計の方が多い。デジタル表示のものは置き時計が数種類と、腕時計に至っては2、3点が隅っこの方の追いやられているだけ。
針の時計に苦い思い出のある自分には、なんとなく腑に落ちずにいる。
「でも、アナログもデジタルも1秒は同じ1秒だよ。だったら数字が1から2に変わる一瞬の時より、秒針が6度動く間の方が得しているような気がしない?」
「得、ですか?」
「0から59までの数が増えるより、秒針が一生懸命60周する1時間の方が貴重なように感じるでしょう?どうせ同じなら、得した気分になった方が嬉しいし」
よくわからない持論を披露し、店長はベストのポケットから取り出した懐中時計のチェーンをボタンホールから外す。自由になった時計を耳に当てると、とろんと瞳を閉じた。
「結局は好きなだけなんだけどね、この音が。――ほら」
テーブルの上に身を乗り出し、時計を持つ腕を伸ばしてわたしの耳に添える。コチコチと規則正しい音とシルバーの裏蓋にまだ残る彼の体温が耳に届いて、わたしの心拍が速まった。
「……わたしは、あまり好きじゃないです。夜中とかは、気になっちゃって眠れなくなりますし」
ソファの上で身を引き、熱を持ち始める耳から彼の手を剥がす。
「そっかあ。最近の時計はほとんど音がしないものが多いけど、気になる人はダメなのかもしれないね」
店長は少し寂しげに微笑んで、大切そうに時計をしまった。
15時26分。標準時の電波を受け現在の時刻を正確に表示する時計の縁を、右手の指先で軽く弾く。薗部時計店で働き始めて最初にもらったお給料で買ったのは、このデジタル式の腕時計だった。
他にも、母と弟に心配をかけたお詫びと日頃の感謝を込めて、ホールケーキも買って帰ったけれど。
「もっと可愛いのにすれば?って言ったのに」
「店長が薦めてくれたのは、どれもアナログだったじゃないですか」
遅刻した面接の日以来、あの腕時計を着けることができなくなったわたしは、時計屋の店員であるという自覚を持つために時計を新調することにしたのだ。
それを告げると、彼がショーケースから出してきたのは、ベルトがブレスレットタイプのものやダイヤルカラーがピンクのものなど、どちらかというとオシャレ重視なアナログ時計ばかり。
中には文字盤に数字がないものまであって、速攻で却下させてもらった。
あまり種類を置いていないデジタル時計の中からわたしがこれを選んだ時も、彼は不服そうに口をへの字に曲げていたっけ。
「どうしてアナログばっかり置いているんですか?デジタルの方が、キッチリとした時間がわかるのに」
店内の商品は圧倒的にアナログ時計の方が多い。デジタル表示のものは置き時計が数種類と、腕時計に至っては2、3点が隅っこの方の追いやられているだけ。
針の時計に苦い思い出のある自分には、なんとなく腑に落ちずにいる。
「でも、アナログもデジタルも1秒は同じ1秒だよ。だったら数字が1から2に変わる一瞬の時より、秒針が6度動く間の方が得しているような気がしない?」
「得、ですか?」
「0から59までの数が増えるより、秒針が一生懸命60周する1時間の方が貴重なように感じるでしょう?どうせ同じなら、得した気分になった方が嬉しいし」
よくわからない持論を披露し、店長はベストのポケットから取り出した懐中時計のチェーンをボタンホールから外す。自由になった時計を耳に当てると、とろんと瞳を閉じた。
「結局は好きなだけなんだけどね、この音が。――ほら」
テーブルの上に身を乗り出し、時計を持つ腕を伸ばしてわたしの耳に添える。コチコチと規則正しい音とシルバーの裏蓋にまだ残る彼の体温が耳に届いて、わたしの心拍が速まった。
「……わたしは、あまり好きじゃないです。夜中とかは、気になっちゃって眠れなくなりますし」
ソファの上で身を引き、熱を持ち始める耳から彼の手を剥がす。
「そっかあ。最近の時計はほとんど音がしないものが多いけど、気になる人はダメなのかもしれないね」
店長は少し寂しげに微笑んで、大切そうに時計をしまった。